未完成のワンフレーズ



それからというもの、私は、今まで以上に李仁の病室へ通うようになった。



ギターを弾いて。

李仁の歌を聞いて。

くだらないことで喧嘩して。

時々、中庭へ行って。

二人で演奏して。




そんな毎日が、ずっと続くと思っていた。

でも――。




「みっちゃん、李仁は?」

「検査だって」

「そっか」



次の日。




「李仁は?」

「今日は治療があるから、しばらく会えないと思うよ」

「……そっか」




その次の日。



「李仁、まだ戻ってきてないの?」

「うん。今日は少し時間がかかるみたい」

「……そっか」




少しずつ。ほんの少しずつ。


李仁と会えない時間が増えていった。



最初は一日。

次は二日。

その次は――。




「……今日も?」




誰もいない病室で、私は一人呟いた。



机の上には、李仁が貸してくれた楽譜。その隣には、李仁のギター。



いつもなら、ここに李仁がいる。




「……李仁」



私は何の返事もない静寂の中、李仁のギターを抱えた。


一人で弾いてみれば、前よりずっと上手くなった。



サヴァン症候群とかいうもので突出した能力があるわけじゃない。


私がギターを弾けるようになったのは、李仁が教えてくれたから。





「……つまんない」




だけど、一人で弾いても、全然楽しくなかった。



その頃から、李仁の病室の前を通ることが増えた。



扉が閉まっている日が多くなった。

検査中。

治療中。

体調不良。

そんな言葉を聞くたびに、胸の奥がざわついた。




それでも私は知らなかった。



李仁が、どんな病気と戦っているのか。

なぜ、日に日に顔色が悪くなっているのか。

なぜ、以前なら普通に歩いていた廊下で、今は壁に手をつくことが増えたのか。

なぜ、歌う時間が少しずつ短くなっているのか。



私はまだ――李仁が急性骨髄性白血病だということを、知らなかった。



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