未完成のワンフレーズ
「ほれちびっ子どもー、そろそろ帰る時間だぜー」
「えー! まだ紗綾姉のギター聞くー」
「聞くー」
「さっさと帰らねぇと、鬼が来てお前らを連れ去っちまうぜー」
「嫌だー! 鬼怖いー!」
子供達は次々に立ち上がると、離れた所で手を降る看護師達に向かって走り出す。
子供達がいなくなってもギターを片付ける気にはなれず、
私はそのままギターを弾き続けようとした。
「ストップ」
「⋯⋯タケちゃんだって聞きに来たんでしょ? ソロライブ、独り占めできるよ」
その言葉は、「もっとギターを弾かせて」という想いの裏返し。
「旭の弟が今病室にいる」
「⋯⋯だから?」
「俺に言わせんなよ」
私の肩を掴むタケちゃんの手から、怒っているんだって伝わってくる。
お願いだから、怒んないでよ。
今は、気分じゃないから。
「流石に、知らないふりはできねぇだろう。お前だって、あいつだって⋯⋯もう隠せないとこまで来た」
タケちゃんの言葉の意味が分からないほど、私だって馬鹿じゃない。
いや、むしろ意味が分かるから⋯⋯。
「あいつには会いたくない」
そんなことを思ってしまう。
「……なんでだ?」
「…………」
「紗綾」
「……怖いから」
ぽつりと呟いた声は、自分でも驚くほど小さかった。
「何が怖い?」
「……分かってるくせに」
タケちゃんは何も言わない。
だから、私はギターの弦を指でなぞった。
「最近の李仁、変だもん」
「………変、か」
「前より疲れてるし、顔色も悪いし。歌だって、途中で休むこと増えた」
「……そうだな」
「なのに、私が聞いても大丈夫って言うの」
不安定な音が、誰もいなくなった中庭に響く。
「大丈夫じゃないくせに……絶対、大丈夫じゃないくせに……」