未完成のワンフレーズ
「時間、ないんだよ⋯⋯」
もう私達は逃げられない。
時間は嫌でも進んでいくし、
死⋯ってのも近づいてくる。
それを一番分かってるのは、李仁自身でしょう?
「末期ならさ⋯来年、のっ⋯⋯」
来年のクリスマス、一緒に迎えられないかもしれないよ。
「紗綾」
そっと近づいてきた手は、私の頬を濡らす涙を拭った。
顔を上げれば、まだ光を失ってない李仁の瞳に涙を流す私が映っている。
ああ、生きてるんだって。
生きて目の前にいるんだって、安心しちゃって。
「アホ面」
「っ⋯⋯うるさぁい⋯⋯李仁の馬鹿。アホ。⋯嫌いだっ」
「あーはいはい。五月蝿くて悪うござんしたね」
そうやって馬鹿にしてくるくせに、頬を撫でる手は優しいんだからさ。
ほんと、調子狂う。
「ねえ、李仁。ちゃんと言ってね」
掛け布団の上に伏せていた顔を上げて、優しすぎる微笑みを向ける李仁を見上げる。
「しんどい時とか、辛い時とか⋯もう嫌だって思った時は、私に言って」
もう何だっていい。
今日食べた病院食美味しくなかったとか。
今日はみっちゃんが患者のおじいちゃんに言い寄られてたとか。
四宮せんせーとタケちゃんが苺ミルクとバナナオレ呑んでたとか。
そんなしょーもないことでもいいから。
毎日、毎分、毎秒。
私にあんたが生きているってことを感じさせて。
「隠し事、しないでよ⋯⋯」
私は李仁のことを何も知らない。
だから、知りたいんだ。李仁のことを。
あの、写真のことを――。