未完成のワンフレーズ
神様って、人を選んでいると思うんだ。
生きたいと思っている人と見殺しにして、
死にたいと思っている人を嫌でも生かすから。
私は後者。
この十五年間。生きててよかったなんて思えた試しがない。
生きてる理由も、生きたい理由もなかった。
死にたいわけでもなく、ただぼんやりとした意識があるだけ。
でも、あれを聞いてから、
あの夜、歩道橋で李仁の歌を聞いた瞬間⋯⋯。
私はこの歌を聞くために生きていたんだって思えたの。
だからね、生きたいと思っている人を生かしてあげて。
私の命をあげるから。
私の寿命の分を生きたい人に生きてもらって。
それで、もっと、
彼に歌わせてあげて――。
「おーい、李仁。ギターの練習しに来たよー!」
開けっ放しの扉の向こうからひょこっと顔を出して、私は能天気な声を出した。
「……え?」
また李仁が「うるさい」って起こるのを期待ていたのに。
待っていたのは、無情な神様の嫌がらせ。
「李仁君、ゆっくり息をしてね」
「大丈夫。今、処置するから」
「血圧、もう一度確認して」
何が起きているのか分からない。
ただ、李仁の顔色が、いつもよりずっと悪かった。
「……李仁?」
呼びかけても、誰も振り返らない。
私の声なんて聞こえていないみたいに、皆李仁だけを見ている。
看護師さんが李仁の傍に立って、慌ただしく動いていた。
その手元を見て――。
「……っ」
息が詰まった。
李仁は自身の口から鼻を手で覆っていて、指の間から何かが滴っていて。
その滴がシーツを赤く染めている。
「…………」
何、何が起きているの?
なんで皆、そんな慌てているの?
この世の終わりみたいな顔をしているの?