未完成のワンフレーズ


昨日まで普通に話してたじゃん。


「……李仁」



もう一度、名前を呼ぶ。

今度は少しだけ大きな声で、自分の存在を知らしめるように。



「李仁……!」



それでも、李仁はこっちを見ない。



いや、見られないんだ。




「……大丈夫だから」



誰かがそう言った。

誰に向けた言葉なのか分からない。

でも、その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。



大丈夫じゃない人に、大丈夫って言ってる。

そんな気がした。



「…………ぁ」



一歩、前に出ようとする。

けれど、足が動かなかった。


私はただ、扉の隙間から見ていることしかできない。



いつもなら、何かあれば李仁に文句を言う。

ギターが下手だとか、生意気だとか、私を置いていくなとか、いくらでも言えるはずなのに。


なのに、今は何も言えない。


ただ、病室の中から聞こえてくる声だけが、やけに遠く感じる。



「もう少しだけ、頑張ろう」

「……はい」


李仁の声が微かに聞こえた。

それだけで涙が出そうになって、喉の奥がぎゅうっと閉まって。


なんでなのか、何も分からなかった。



お願いだから、こっちを見てよ。

いつもみたいに、「何突っ立ってんだよ」って言ってよ。


なんでもいい。

いつもの李仁でいてよ。



「……李仁」



声が震える。病衣を握る手も震えていて、気を抜けばすぐ崩れ落ちてしまいそう。



「私、ここにいるよ」



聞こえているかは、分からない。

それでも、私はその場を離れられなかった。



李仁の病室の前で、ただ、何もできないまま、彼がまた笑ってくれるのを待っていた。

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