未完成のワンフレーズ
クリスマス会の混沌から逃げ出した私達が来たのは、
夜の静けさに包まれる屋上だった。
「このマフラー暖かいねぇ。タグとか着いてなかったし、誰かの手作りかなぁ」
「たぶん、水野先生」
「えっ、そうなの?」
「俺らに隠れて編んでるのを見ちゃったから」
優しいなぁ、ここにいる人達って。
「なあ、今なら話せる」
楽しかった時間は終わりを告げて、これから始まるのは私達の時間。
ううん、私の知らない私達の時間だ。
「死に戻りって信じるか?」
「え、死に戻り⋯?」
転落防止の鉄柵にもたれ掛かった李仁は、空に浮かぶ満月に向かって手を伸ばした。
「俺、死に戻りしたんだ。ずっと、後悔してることがあるから」
死に戻り、しにもどり、シニモドリ。
「白血病で死んだはずなのに、何故か俺は生きてる」
「ま、待ってっ! ⋯⋯意味、分かんない⋯⋯⋯」
振り返った李仁は、なんとも言えないぎこちない微笑みを浮かべた。
夜風で彼のマフラーが揺れる。ちゃんと巻いていないから、肩から少し摺り落ちていた。
「あの写真は、終わったはずの世界で撮った写真だ。あの世界でのお前は、ずっと昔に壊れてた」
キイィィィン―――。
『お兄! 水野先生達もこっち来てよー!』
誰、これは誰の声?
『――。今日はクリスマスだ。楽しいか?』
これは、私の知らないもう一人の私?
じゃあ、この声はもう一人の李仁?
いや、違う。
あの写真に写る李仁は、今目の前にいる李仁。
彼だけが、この世界に取り残されちゃったってこと?
「俺達が初めて会った日のことを覚えてるか?」
「歩道橋だよね⋯李仁はギターを弾いてて⋯⋯」
「この世界では、あの日が始まりだったけど⋯この写真を取った世界では、あの日が終わりだった」