未完成のワンフレーズ
「生きててくれて、ありがとう」
生きる意味とか、生きる理由とか、何にも分かんなかったけど。
分かんなくて誰かに聞いたことがあった気がするけど、そんなの何の意味もなかったんだ。
私が李仁の曲に、彼自身に救われたように、
私は李仁のことを救えていたんだ。
「ずるいぃ⋯⋯私だって……言いたいこといっぱいあるのに」
「じゃあ言えよ」
「……ばか」
「それ一個目?」
「うるさい」
ああ、いつもの李仁だ。いつも通り、私の言葉に一々文句を言ってくる感じ。
なんだか安心して、しゃくり上げながら私は笑った。
「……ありがとう」
李仁がいきなり柄にもないこと言い出すから、私から仕返ししてやる。
「私を見つけてくれて、ありがとう。歌を聞かせてくれて、ありがとう。ギターを教えてくれて、ありがとう」
私は、ずっとそう言いたかったんだと思う。
ありがとうって、この五文字だけじゃ伝えきれない感謝を伝えたかったんだ。
「……生きててくれて、ありがとう」
ううん、違うね。
“生まれてきてくれてありがとう”かな。
「流石に冷えてきたねー。そろそろ戻らないと先生達が心配してるよ」
「……そうだな」
微笑んだり人が一歩降り出したから、私も後ろを向いて歩き出す。
その時だった。
「……っ、げほっ」
「……李仁?」
足音が止まった代わりに何かが聞こえたから、私は歩みを止めてしまった。
きっと見ない方が良い。そうは分かっていても振り返ってしまって。
「李仁!?」
振り返った先で、李仁が膝をついていた。
「ちょ、ちょっと……どうしたの?」
駆け寄ろうと一歩踏み出したその瞬間、李仁の口元から赤いものが零れ落ちた。
「…………え?」
屋上に降り積もる雪を赤く染めていく。
モノクロの世界に似合わない赤色が差した。
「り、李仁……? 待って、今……先生呼ぶから!」
手とか、雪とかだけじゃなくて。
サンタさんの衣装だって、もらったばかりのマフラーだって赤くなっていく。
やばいやつだって思って走り出せば、李仁は血の着いた手で私の腕を掴んだ。
「……紗、綾」
「なに……?」
「……ごめん」
「え?」
ぐらっと華奢な身体が傾いて、力なく私に寄り掛かってきた。
外にいたからって言うには、あまりにも身体が冷たい。
「李仁、ねえ! 李仁ってば!」
ずっと限界だったんだって、無理してたんだって気づくのに、私は何もかも遅すぎた―――。