未完成のワンフレーズ

「⋯⋯あの日も、雪降ってたなぁ」


そっと伸ばされた李仁の掌に小粒の雪が降り落ちる。


私は手を動かす気にもなれなくて、ぼんやりと空を見上げることしかできなかった。


「あの世界で、お前は俺のギターを聞いて下手って言った。その時だけ、お前は笑ってたんだ」


だからずっと下手なままでいれば、お前は笑ってくれる。


李仁は涙を流しながら、真っ直ぐ私だけを見ていた。

まるで、私が生きていることを改めて確認するように。


「でも、この世界のお前はいつだって笑っていた。歩道橋で会った時も、お前は笑ってた。俺はさ⋯それがどうしようもなく嬉しかったんだよ」


神様はチャンスを与えてくれた。


ここにずっと私を見てくれていた人がいたのに、気づかずに全部捨てた私に。

もう一度気づける時間を、やり直す時間をくれたんだ。


「わた、わたしっ⋯何も、してないのに⋯⋯なんで、りひとっ⋯ばっかり」

「したよ。お前はしてくれた」

「してないって……!」


私の知ってる李仁は、そうやって優しく笑ったりなんてしない。


生意気で、意地悪で。

私が病室に飛び込めば「うるさい」って怒るし、ギターを教えるの下手なのに熱血だし。


でも、一度だって「出ていけ」なんて言わなかったな。


「お前を救いたいって思ってやり直しに来たのに、結局救われてたのは俺だった。独りよがりだって思われるのが嫌で言えなかったけど⋯⋯俺は、お前が病室に来るのも、ギターを練習しに来るのも全部楽しみだった」


一つ一つの思い出を辿るように、李仁は涙を流しながら笑った。


「俺の曲を好きだって言ってくれたお前に、救われてた」


同じ場所にいるんだから、もっと近づけばいいのに。

根を張ったように動けなくて、目の前にいるはずの李仁が何処か遠くに行ってしまいそうで。
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