冷遇された闇王女は、隣国の王に愛される
訓練
訓練を始めることが決まってから三日後。ノクティス王城の裏手にある魔法訓練場では、魔法師たちが思い思いに魔法を使っていた。
光の結界魔法を応用した魔術で囲まれた屋根のある訓練場は、魔法を使っても外部に影響がないそうだ。そもそも、ソレイユ光国では魔法師団と呼ばれる組織もなく、尊ばれるのは光属性の聖職者たちだけだったこともあって、ライラは緊張した面持ちで、その光景を見つめていた。
「こちらです、ライラ様」
ルシアンがライラを名前だけで呼ぶようになってから、セレーヌ達の呼び方も殿下から様へと変わった。少し親しくなれたようで嬉しく思いながらライラは微笑んで頷く。セレーヌに案内され、訓練場の一角へ向かうと、すでにカイルが待っていた。いつもと変わらず黒衣を纏い無表情で佇んでいる。
「おはようございます、カイル様」
「おはようございます、ライラ様」
短く返事をすると、カイルはライラを静かに見つめた。
「本日から魔法の基礎訓練を始めます」
「よろしくお願いします」
深々と頭を下げるライラを見て、カイルは小さく頷いた。
「まず確認します」
「はい」
「王女殿下は、魔法を使った経験がありますか」
ライラは首を横に振る。
「ありません」
「属性は」
「闇属性だとだけ、教えられていました」
「……教えられていた?」
「はい」
ライラは少し困ったように笑う。
「私は属性を調べてもらっただけで、魔法は学ばせてもらえませんでした」
その場の空気が一瞬だけ止まる。
セレーヌが静かに目を伏せた。カイルも何も言わなかった。
(王族でありながら、魔法教育すら受けていない……)
ノクティス王国では魔法教育は貴族の基礎教育の一つだ。ライラのソレイユ光国での扱いが、また一つ明らかになり、セレーヌとカイルは心が痛くなった。
「……分かりました」
それ以上は聞かず、カイルはライラに何から教えるべきか考える。まずは実践より座学が必要だと訓練場の隅に用意された椅子に彼女を座らせる。
「それでは、まず魔法の基礎知識について。魔法には6属性があります。光と闇、火、水、風、土です。普通は光と闇、火と水、風と土のように相反する属性を持つことは出来ません。
「そうなのですね」
「また基本的に属性というのは生まれ持つもので、後天的に変化することは、ほぼありません。なのでライラ様には闇属性の魔法を覚えていただこうと思います」
「はい。……それを覚えれば移動魔術も使えるでしょうか?」
フォルテリアに移動する時のライラとルシアンの会話を思い出して、カイルは微かに笑んだ。
「もちろんです。魔術は魔法とは少し違う技術ですが、基本は魔法の使い方の応用です」
それを聞いてライラはホッとしたように微笑んだ。
「では、まずは基本から。魔力の移動ですが、魔洞玉を使います」
両手で収まりそうな透明な丸い水晶玉のようなものをカイルが、どこからか取り出す。
「魔術によって作られた中が空洞になっている玉です。闇の魔力を流すと、こうなります」
魔洞玉の中が、まるで闇夜のように黒く染まる。
「セレーヌ殿、頼めるか?」
「もちろんですわ」
セレーヌが魔洞玉に手を触れると魔洞玉は柔らかく光った。
「凄い!」
キラキラと瞳を輝かせながらライラは驚いた。その様子をセレーヌとカイルは微笑ましく見守る。
「このように魔力が魔洞玉に入ると、その魔力によって空洞に変化が現れます。闇属性なら闇が、光属性なら光が」
「水属性の方なら水が、火属性の方なら火が現れるんですか?」
「その通りです。早速、試してもらえますか?」
「はい!」
元気よく返事をしてライラが魔洞玉に手を触れる。けれど魔洞玉に変化はない。魔洞玉は魔法を使う最初の練習のために作られた道具だ。魔洞玉に魔力を流す、というよりは、触れたものの魔力を吸い出すような作りをしている。なのでライラの練習にも使えるだろうとカイルは思っていた。
「……私、才能がない……のですか?」
「そんなはずはありません」
カイルもセレーヌも彼女へ闇の魔力が流れていくのを見た。普段の流れとは違うものの、あれは魔力の動き――それを自在に操れば魔法になるモノだ。
(そういえばライラ様の能力は吸収かもしれない、という話だったな。ならば……)
カイルは魔洞玉に自らの魔力を吸わせる。あっという間に闇に染まった魔洞玉をライラへと差し出した。
「さすがカイルさんですね……」
「……ライラ様、魔洞玉に触れてもらえますか?」
「……はい」
カイルの真剣な様子にライラも頷いて魔洞玉に触れる。すると空洞の中にある闇が、あっという間に消え去った。魔洞玉の闇が消えると同時に、カイルの眉が僅かに動く。
(やはり――)
仮説が、また一つ裏付けられた瞬間だった。
「これは……?」
「やはり、ライラ様の魔力は普通の闇属性の魔力とは違うようです。私の魔力をライラ様が吸収したのかと思います。……お身体に不調はありませんか?」
「大丈夫です」
「そう。でも今日はそこまでにしておこう」
「……ルシアン様」
いつの間にか現れたルシアンの柔らかな声に驚いてライラが振り向くと彼が優しく彼女を見つめていた。
「ライラの様子が気になってね。自分以外の魔力が体内に入ることは普通ない。あの戦いの時も、他の魔力が体内に入って体調を崩しただろう? 今は戦闘時ではないし、無理しないで欲しい、ライラ」
「そうですね、分かりました」
「訓練で一番大切なのは、無理をしないことだよ」
「はい」
「君は頑張り過ぎるところがあるからね」
図星を突かれてライラ俯く。そんな様子に、ルシアンは優しく目を細めながら、ライラの頬に手を当てた。優しく顔を上げさせる。
「努力家なところも素晴らしいと思うし、そういうところも好きだよ。でも、やっぱりライラには無理をして欲しくない」
その言葉に、ライラは小さく頷いた。
守られるだけではなく、いつか誰かを守れるようになりたい。
その願いを胸に、ライラは一歩ずつ歩み出した。
光の結界魔法を応用した魔術で囲まれた屋根のある訓練場は、魔法を使っても外部に影響がないそうだ。そもそも、ソレイユ光国では魔法師団と呼ばれる組織もなく、尊ばれるのは光属性の聖職者たちだけだったこともあって、ライラは緊張した面持ちで、その光景を見つめていた。
「こちらです、ライラ様」
ルシアンがライラを名前だけで呼ぶようになってから、セレーヌ達の呼び方も殿下から様へと変わった。少し親しくなれたようで嬉しく思いながらライラは微笑んで頷く。セレーヌに案内され、訓練場の一角へ向かうと、すでにカイルが待っていた。いつもと変わらず黒衣を纏い無表情で佇んでいる。
「おはようございます、カイル様」
「おはようございます、ライラ様」
短く返事をすると、カイルはライラを静かに見つめた。
「本日から魔法の基礎訓練を始めます」
「よろしくお願いします」
深々と頭を下げるライラを見て、カイルは小さく頷いた。
「まず確認します」
「はい」
「王女殿下は、魔法を使った経験がありますか」
ライラは首を横に振る。
「ありません」
「属性は」
「闇属性だとだけ、教えられていました」
「……教えられていた?」
「はい」
ライラは少し困ったように笑う。
「私は属性を調べてもらっただけで、魔法は学ばせてもらえませんでした」
その場の空気が一瞬だけ止まる。
セレーヌが静かに目を伏せた。カイルも何も言わなかった。
(王族でありながら、魔法教育すら受けていない……)
ノクティス王国では魔法教育は貴族の基礎教育の一つだ。ライラのソレイユ光国での扱いが、また一つ明らかになり、セレーヌとカイルは心が痛くなった。
「……分かりました」
それ以上は聞かず、カイルはライラに何から教えるべきか考える。まずは実践より座学が必要だと訓練場の隅に用意された椅子に彼女を座らせる。
「それでは、まず魔法の基礎知識について。魔法には6属性があります。光と闇、火、水、風、土です。普通は光と闇、火と水、風と土のように相反する属性を持つことは出来ません。
「そうなのですね」
「また基本的に属性というのは生まれ持つもので、後天的に変化することは、ほぼありません。なのでライラ様には闇属性の魔法を覚えていただこうと思います」
「はい。……それを覚えれば移動魔術も使えるでしょうか?」
フォルテリアに移動する時のライラとルシアンの会話を思い出して、カイルは微かに笑んだ。
「もちろんです。魔術は魔法とは少し違う技術ですが、基本は魔法の使い方の応用です」
それを聞いてライラはホッとしたように微笑んだ。
「では、まずは基本から。魔力の移動ですが、魔洞玉を使います」
両手で収まりそうな透明な丸い水晶玉のようなものをカイルが、どこからか取り出す。
「魔術によって作られた中が空洞になっている玉です。闇の魔力を流すと、こうなります」
魔洞玉の中が、まるで闇夜のように黒く染まる。
「セレーヌ殿、頼めるか?」
「もちろんですわ」
セレーヌが魔洞玉に手を触れると魔洞玉は柔らかく光った。
「凄い!」
キラキラと瞳を輝かせながらライラは驚いた。その様子をセレーヌとカイルは微笑ましく見守る。
「このように魔力が魔洞玉に入ると、その魔力によって空洞に変化が現れます。闇属性なら闇が、光属性なら光が」
「水属性の方なら水が、火属性の方なら火が現れるんですか?」
「その通りです。早速、試してもらえますか?」
「はい!」
元気よく返事をしてライラが魔洞玉に手を触れる。けれど魔洞玉に変化はない。魔洞玉は魔法を使う最初の練習のために作られた道具だ。魔洞玉に魔力を流す、というよりは、触れたものの魔力を吸い出すような作りをしている。なのでライラの練習にも使えるだろうとカイルは思っていた。
「……私、才能がない……のですか?」
「そんなはずはありません」
カイルもセレーヌも彼女へ闇の魔力が流れていくのを見た。普段の流れとは違うものの、あれは魔力の動き――それを自在に操れば魔法になるモノだ。
(そういえばライラ様の能力は吸収かもしれない、という話だったな。ならば……)
カイルは魔洞玉に自らの魔力を吸わせる。あっという間に闇に染まった魔洞玉をライラへと差し出した。
「さすがカイルさんですね……」
「……ライラ様、魔洞玉に触れてもらえますか?」
「……はい」
カイルの真剣な様子にライラも頷いて魔洞玉に触れる。すると空洞の中にある闇が、あっという間に消え去った。魔洞玉の闇が消えると同時に、カイルの眉が僅かに動く。
(やはり――)
仮説が、また一つ裏付けられた瞬間だった。
「これは……?」
「やはり、ライラ様の魔力は普通の闇属性の魔力とは違うようです。私の魔力をライラ様が吸収したのかと思います。……お身体に不調はありませんか?」
「大丈夫です」
「そう。でも今日はそこまでにしておこう」
「……ルシアン様」
いつの間にか現れたルシアンの柔らかな声に驚いてライラが振り向くと彼が優しく彼女を見つめていた。
「ライラの様子が気になってね。自分以外の魔力が体内に入ることは普通ない。あの戦いの時も、他の魔力が体内に入って体調を崩しただろう? 今は戦闘時ではないし、無理しないで欲しい、ライラ」
「そうですね、分かりました」
「訓練で一番大切なのは、無理をしないことだよ」
「はい」
「君は頑張り過ぎるところがあるからね」
図星を突かれてライラ俯く。そんな様子に、ルシアンは優しく目を細めながら、ライラの頬に手を当てた。優しく顔を上げさせる。
「努力家なところも素晴らしいと思うし、そういうところも好きだよ。でも、やっぱりライラには無理をして欲しくない」
その言葉に、ライラは小さく頷いた。
守られるだけではなく、いつか誰かを守れるようになりたい。
その願いを胸に、ライラは一歩ずつ歩み出した。