冷遇された闇王女は、隣国の王に愛される

仮説

 しばらくして、扉が開き、セレーヌを伴ったライラが姿を見せた。

「陛下」

 まだ少し顔色は戻りきっていない。それでも、自分の足で歩いてきた彼女にルシアンは少し安堵した。

「ライラ王女。もう起きても大丈夫なのかい?」
「はい。ご心配をおかけしまして……」

 また謝ろうとする彼女に、ルシアンは小さく笑った。

「謝る必要はないよ。君の、そういう心配りが出来る優しいところを俺は好きだけど。でも、そうだな……謝罪より、ありがとうと笑ってほしい」
「ありがとう、ですか?」
「好きな人が悲しい顔で謝るより、笑ってお礼を言ってくれた方が俺は嬉しい」

(……好きな、人?)

 言われたことのない言葉にライラの思考は一瞬停止した。それから、じわりと、その言葉が心に染み込んで、頬が熱をもつ。

「……えっと、その……ルシアン陛下、ご心配、ありがとうございます……?」
「……うん、やっぱり、そちらの方がいいな。ゆっくりでいいから、俺に慣れてくれると嬉しいよ、ライラ。もう一つ俺からお願いしてもいいかい?」
「あ……えっと……もちろんです」

 初めて名前だけで呼ばれてライラの鼓動が跳ねる。

「俺のことは公務の時以外、ルシアンと呼んで欲しい。もうすぐ夫婦になるのだし、ね?」
「……はい……ルシアン様」

 真っ赤になったライラをルシアンは微笑みながら蕩けるような目で見つめた。カイルとセレーヌからの呆れたような視線を受けて、ルシアンはもう少しライラと会話を楽しみたい気持ちを封じた。

「それで? 俺に話があると聞いたけど?」
「はい。……昨日のことを、知りたいのです」
「怖くないのかい?」
「……怖いです」

 ライラは正直に答えた。

「でも……知らないままの方が、もっと怖いと思いました」

 その言葉に、ルシアンは微笑みを深めた。彼女が自分の意思で選んで行動している様が嬉しかった。

「分かった。まずは昨日の状況を確認しよう。魔の森付近で俺たちは魔物に接敵した。俺は前線へ、君とセレーヌ、カイルは中団へ残った。その後、俺とカイル、セレーヌ、闇属性の魔法師数名が魔物から闇属性の魔力が動くのを視認。その時、闇属性の魔力が君に移動したように見えたとカイルとセレーヌから報告があった」
「はい」
「その後、君が倒れて、俺たちはフォルテリア城に帰城。第一騎士団と魔法師団が魔物たちを掃討。その後、魔物の遺骸をカイルが調べたところ、残存する闇属性の魔力が普通の魔物の遺骸より少なかった。……このことから、俺たちは君が魔物から魔力を吸収したのではないかと仮定している」
「魔物から魔力を、吸収……?闇属性の魔法師の皆さんは、そんなことが出来るのですか?」
「いや、闇属性だろうが光属性だろうが、他の魔力を吸収できると言った例はないそうだ」

(それじゃあ、私は……何なの?)

 ライラは青ざめてふらついたところをルシアンが支えた。

「正直に言えば、君のその力はノクティス王国の切り札になる。……けれど俺は戦場に、君を連れて行きたくない」
「……私が……お役に立てるのですか?」

 ルシアンの言葉に驚いてライラが彼を見上げる。ルシアンは困ったような笑みを浮かべていた。
 
「この仮説が事実なら、役に立つどころの話ではないよ」
「それなら、私を連れて行ってください」
「君なら、そう言うだろうと思った。……けれど、今のままでは連れて行けない。カイルに闇魔法の使い方を、セレーヌに乗馬や戦場での身の振り方を教わりなさい」
「はい。……そうすれば、連れていって下さいますか?」
「むしろ、こちらからお願いしないといけないところだよ、ライラ。訓練を乗り越え、俺と供に戦場に立ってくれるかい?」
「もちろんです、ルシアン様」
「ありがとう、ライラ」

 笑顔で告げられたルシアンの言葉にライラの心がふわりと暖かくなる。

 ――笑ってお礼を言ってくれた方が嬉しい

 今なら、そんなルシアンの言葉が分かるような気がした。
 
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