再会した冷徹上司は、私にだけ過保護です

第20話 ※ちなみに氷室は日付が変わる前に帰った

「私、知りませんでした……。社会人のクリスマスって、普通に仕事あるんですね……」

「そうよ。またひとつ賢くなったわね、小日向さん」

 犀川さんは目が死んでいた。
 師走、締切前の編集部は殺伐としている。
 締切前のラッシュで編集者がひっきりなしに作家と連絡を取り、原稿をなんとか印刷所にねじ込もうとしていた。
 しかし、印刷所も大量の入稿に悲鳴をあげるという阿鼻叫喚。
 周りの編集者に下手に声をかければ、血走った目で睨まれることだろう。

「小日向。手伝うことはあるか」

 ……そんな中、冬馬先輩だけは何故かいつもの涼しい顔(無表情)をしているわけだけど。

「先輩は、お忙しくないですか?」

「一番厄介な作家は、お前が担当してるからな」

 日暮先生のことだ……。
 ちなみに先生は「ウィーウィッシュアメリークリスマス、アンドハッピーニューイヤー」と書き残して蒸発している。

「……。日暮先生(あのバカ)は諦めろ。おそらく既に海外に高飛びしている。年明けまでは帰ってこない」

「手口が慣れてますね、あの人」

「常習犯だ」

 というわけで、今年中に日暮先生の著作を出すことはできないらしい。
 12月になっても未だにプロット段階なんだけど、旅先で少しでも作業が進んでいることを祈ろう。

「今度、一緒にアイツの根城を家宅捜索して、パスポートを取り上げる必要があるな」

「先輩は今まで家探ししてなかったんですか?」

「1人では限界がある。だが、今回はお前がいるからな。なんとかなるだろう」

「はい! 頑張りますね!」

 そんな話をしながら、怒涛の1日を過ごす。
 あっという間に日が暮れた。
 冬は外が暗くなるのが早い。

「帰るぞ。駅前の店、まだ開いてる」

 残業後、先輩が腕時計を確認した。
 ケーキ屋さんには、幸運なことにショートケーキが残っている。

「あ、でもイートインスペースないですね。家で食べましょう!」

「そうだな。それぞれの家に持ち帰って――」

「え? 私の家で一緒に食べればよくないですか?」

 先輩の動きがピタッと止まった。

「…………お前、そうやって人をホイホイ家に上げてるのか?」

「え? 先輩が初めてですよ?」

「――」

「あ、でも一人暮らしだから皿とかコップとかないかも! 先輩、コンビニで買いましょう!」

 こうして、なんとか無事に紙コップと紙皿を手に入れた私たち。
 珍しく、というか初めて同じ方向の電車に揺られていくのだった――。

 ――その後、1月5日。

「……で?」

 田島さんと、高飛びから帰ってきた日暮先生が話を促す。

「はい! 一緒に本を読みながら感想を言い合ってました!」

「マジかよ……氷室ちゃん流石に可哀想だろ……」

 田島さんは「俺だったら無理」という顔をしていた。

「えっ、冬馬先輩がお好きな本を揃えてたんですけど、お気に召さなかったでしょうか……」

「そういう問題じゃないんだよなあ」

「仕方ないよ田島くん。春ちゃんは無菌室で純粋培養されたホムンクルスなんだから」

「人間扱いされてない!?」

 休憩室は、笑いに包まれたのである。
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