ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

第1話「え?中学生? 」

今まで彼女は何人かいた。
でも、自分から「この子が好きだ」と思ったことはなかった。
だから、冬城凛を好きだと気づいたときも、俺は深く考えなかった。
好きなら、言えばいい。

「俺、お前のこと好きだわ。」

そう言えば、少しくらいは照れると思っていた。
凛は数秒だけ俺を見つめたあと、いつもの無表情で言った。

「そうですか。私は好きではありません。」

「……え?」

自分から好きになった女に、自分は好きじゃないと言われる。
そんなことがあるなんて、このときの俺は本気で考えていなかった。



――二か月前。

大学三年の四月。
新入生の歓迎会を兼ねた、サークルの飲み会があった。
その飲み会で俺はあいつと初めて会った。

「田中、今日の服地味じゃね?」

向かいに座っていた田中を見る。

「いつもこんな感じだろ。」

「じゃあ、いつも地味なんだ。」

「お前、喋るのやめろ。」

「なんでだよ。」

俺が笑っていると、店の入口が開いた。
太田美奈が見慣れない女を連れて店へ入ってくる。



ちっさ。
顔もちっちゃ。

長い黒髪がまっすぐ肩から落ちていて、白い顔に大きな黒い目が目立つ。
派手な感じではないけど、顔は普通に整っていた。

美奈は背が高いうえに厚底を履いているせいで、隣の女が余計に小さく見える。
そして俺は、思ったことをそのまま口にした。

「え?中学生?」

この一言が、すべての始まりだった。
見慣れない女が俺を見る。

「大学生です。」

冷たい声だった。

「マジ?」

俺は改めて、そいつを上から下まで見た。

「あー、確かに。」

胸がでかい。
そりゃ中学生ではないな。

「あなた、今私の胸を見て言いましたよね。」

「え?バレた?」

「隠す気もなかったでしょう。」

「まあ。」

「初対面の女性の身体を上から下まで見たうえで、それを理由に年齢を判断する。かなり失礼な人ですね。」

「……めっちゃ言うじゃん。」

「事実を言っただけです。」

真顔だった。
怒っているというより、本当にただ事実を説明しているような顔。
女に「失礼」と言われること自体は珍しくない。
でも、ここまで冷静に詰められたのは初めてだった。

――何こいつ。

ちょっとおもしろい。

向かいに座っていた田中が、俺たちを交互に見ながらオロオロしている。

「夏樹、お前さすがに初対面でそれはないって……。」

田中が困ったように口を挟んだ。

「え、そう?」

「そうだよ。」

「もー、いいから席着かせてよ。」

美奈が呆れたように言った。

「悪い悪い。俺のとこ空いてるよ」

俺は自分の隣の椅子をポンポンと叩いた。
他に二人並んで座れる場所は空いていなかったらしく、美奈とその女はそのまま俺の隣に腰を下ろした。
俺の隣にその女が座り、その隣に美奈が腰を下ろした。
俺は隣の女へ手を差し出した。

「俺、経済学部三年の佐藤夏樹。よろしく。」

女は差し出された手を一瞬見たあと、小さな手を伸ばしてきた。

「冬城凛。法学部三年です。」

「え!同い年?」

思わず声が出た。

「新入生かと思った。」

「さっきは中学生と言っていましたよね。」

「大学生って分かったから、ちょっと上方修正した。」

「何も嬉しくありません。」

「夏樹、もう喋るのやめなよ。」

美奈が笑いながら言った。

「黙ってれば顔いいのに、ほんと残念。」

「余計なお世話。」

「美奈、この人いつもこうなの?」

凛が隣の美奈を見た。

「あー……まあ。」

美奈は少し考えてから、俺を見た。

「悪気はないんだよ。びっくりするくらい。」

「それは免罪符にならないけど。」

「ほら、また言われてるぞ。」

田中が笑う。
俺もつられて笑った。
別に腹は立たなかった。
むしろ、もっと喋ってみたくなった。

「凛ちゃんって法学部なんだ。」

「その呼び方、やめてもらえますか。」

「法学部ってことはさ、法律に詳しいの?俺、失礼なことしたら捕まっちゃう?」

「まず、人の話を聞くところから始めてください。」

「何飲む?小さいからお酒飲めない?」

ドリンクメニューを凛に差し出した。
凛は俺の手元のメニューに視線を落とし、黙って受け取った。
そのままドリンク欄を眺めながら口を開く。

「身長で飲酒能力を判断する根拠は何ですか?」

「なんとなく。」

「根拠ゼロですね。」

「うん。」

「そこは否定しないんですね。」

「だって、なんとなくだし。」

凛が俺をじっと見た。

「……あなた、思ったこと全部口に出すんですか?」

「たぶん。」

「迷惑ですね。」

普通なら、とっくに会話を切られている。
それなのに凛は、俺が何か言うたびに律儀に言い返してきた。

やっぱ、こいつおもしろい。

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