ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

第2話「友達少ないんだ?」

翌日。
俺は大学近くのカフェで、彼女と向かい合っていた。

「そういや昨日さ、サークルの飲み会におもしろい女来てて。」

「……女?」

彼女が持っていたストローから口を離した。

「うん。法学部のやつ。めちゃくちゃ小さくてさ、最初中学生かと思った。」

「は?」

「俺がそう言ったら、めっちゃ冷静に言い返してきて。なんだっけな……身長でどうとか、根拠がどうとか。」

思い出すと、ちょっと笑えてきた。
冬城凛。
今まで会ったことのないタイプだった。
俺が何を言っても怒鳴ったりムスッとしたりするんじゃなく、全部淡々と言い返してきた。

「マジでおもしろかったわ。」

「……ねえ。」

「ん?」

「なんで私といるのに、昨日会った女の話ずっとしてんの?」

「え?」

そう言われて、俺は首を傾げた。

「だって昨日の話してただけじゃん。」

「それが嫌だって言ってるの。」

「あー……そういうこと?」

彼女の眉間にしわが寄った。

「そういうところ、ほんと無理。」

「何が?」

「もういい。」

彼女はテーブルの上に置いていたバッグを手に取った。

「別れよ。」

突然だった。
……とはいえ。
こういうのは、初めてじゃなかった。

「分かった。」

「……は?」

今度は彼女が固まった。

「だから、分かった。」

「止めないの?」

「だって別れたいんだろ?」

「…………。」

何か言いたそうな顔をしたあと、彼女は勢いよく席を立った。

「そういうところが嫌なの!」

そのまま店を出ていった。
残された俺は、テーブルの上のアイスコーヒーを一口飲んだ。

「……そういうところって、どこだよ。」

結局よく分からなかった。

その日の昼休み。

「また振られたの?」

大学の食堂で、田中が呆れた顔をした。
俺の隣では、小川がラーメンをすすっていた。

「振られたっていうか、別れよって言われた。」

「それを振られたって言うんだよ。」

「そうなの?」

「お前、本当に今までどうやって彼女作ってきたんだよ。」

「普通に?」

「その普通を聞いてんの。」

田中がため息をついた。
小川がラーメンから顔を上げた。

「で、今回は何か月?」

「二か月くらい?」

「短っ。」

「前より長くね?」

「比較対象がおかしいんだよ。」

田中が頭を抱えた。
俺はそんな二人を見ながら、唐揚げを口に放り込んだ。

彼女ができること自体は、別に珍しくなかった。
告白されて、なんとなく付き合うこともあった。
俺から声をかけて、そのまま付き合うこともあった。
ただ、長く続いたことはあまりなかった。

「で、原因は?」

小川が聞いた。

「昨日会った女の話したら怒った。」

「女?」

「昨日の飲み会にいた法学部の。」

「ああ。」

田中がすぐに察した。

「冬城さん?」

「そう。凛ちゃん。」

「本人にその呼び方やめろって言われてただろ。」

「細かいな。」

「細かくない。」

そう言われたところで、俺は食堂の外に目を向けた。

「あ。」

見覚えのある、小さな姿が横切った。
黒く長い髪。
落ち着いた服装。
そして、胸がでかい。
昨日の女――冬城凛だった。

「いた。」

「何が?」

俺は立ち上がった。

「凛ちゃん。」

「おい、夏樹?」

田中の声を無視して、俺は急いでトレーを返却口へ戻し、食堂を出た。

廊下の先を歩いていた凛に追いついた。

「おーい。」

声をかけると、凛が振り返った。
俺を見た瞬間、少しだけ嫌そうな顔をした。

「ああ。昨日の失礼な人。」

「名前覚えてない?」

「覚えています。佐藤夏樹さん。」

「じゃあ名前で呼べよ。」

「嫌です。」

即答された。

やっぱおもしろい。

俺は凛の横に並んだ。
俺が百八十あるせいもあったけど、並ぶとやっぱり小さかった。
頭ひとつどころじゃないくらい差があった。

「近いです。」

「そう?」

「圧迫感があります。」

「そういやさ。」

「なんですか。」

「昨日、なんで飲み会来たの?」

凛が俺を見た。

「どういう意味ですか?」

「いや、なんかああいうの好きそうに見えなかったから。」

「……それは合っています。」

「やっぱり?」

「人が多い場所はあまり得意ではありません。」

「じゃあなんで?」

少しだけ間が空いた。

「人脈づくりです。」

「人脈?」

「大学三年なので、就職活動もありますし。今まで特定の友人としか関わってこなかったので、もう少し交友関係を広げたほうがいいかと思いまして。」

「へえ。」

思ったよりちゃんとした理由だった。

「友達少ないんだ?」

凛の目が細くなった。

「……失礼ですね。」

「あ、また怒った。」

「怒っていません。」

「でも友達少ないんだろ?」

「親しい友人は二人です。」

「二人?」

俺は思わず凛を見た。

「少なっ。」

「余計なお世話です。」

凛はそのまま歩いていた。
俺も隣を歩きながら、少し考えた。

「でもさ。」

「なんですか。」

「親友二人いるって、普通にすごくね?」

凛が足を止めた。

「……はい?」

「俺、友達はめっちゃいるけど、親友って言われるといないかも。」

「いないんですか?」

「たぶん。」

改めて考えてみた。
大学に来れば誰かしらと喋ったし、飯に行くやつも、飲みに行くやつもたくさんいた。
でも、「親友は誰?」って聞かれたら、すぐに名前は出てこなかった。

「今まで考えたことなかったわ。」

「自分のことなのに?」

「うん。」

凛が呆れたように俺を見た。

「だから、二人もいるの普通にすごいと思う。」

「……別に、人数は重要ではないので。」

「そういうもん?」

「私はそう思っています。」

「へえ。」

凛はまた歩き始めた。
俺もその隣を歩いた。

昨日も思ったけど。
やっぱこいつ、喋ってるとおもしろい。



< 2 / 4 >

この作品をシェア

pagetop