ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

第35話「一緒に住めば、さっきの通路で別れなくて済む」


入社して、半年が過ぎた。

朝、ネクタイを結ぶのにも慣れた。
電話が鳴るたびに身構えることも、少し減った。
それでも、自分の説明に夢中になる癖は、なかなか抜けなかった。

「実は、社内で説明するのが難しくて。」

打ち合わせ中、取引先の担当者が資料をめくりながら言った。
以前の俺なら、商品の説明を追加していたと思う。

けれど、その日は一度、口を閉じた。

「どのあたりで、質問が出そうですか。」

尋ねると、担当者は資料の一か所を指した。

「導入したあと、現場の作業がどう変わるのか。そこを上司に聞かれると思うんです。」

隣の神崎さんを見そうになって、踏みとどまった。
鞄から、もう一枚の資料を取り出した。

「前回、現場の方への説明も必要だと伺ったので。今の手順と導入後の手順を、並べてみました。」

「ああ、これなら説明しやすいですね。」

その言葉に、ようやく肩の力が抜けた。

打ち合わせを終え、ビルを出たところで、神崎さんが言った。

「前回のお話を、きちんと拾えていましたね。」

「……ありがとうございます。」

褒められた。
顔に出すぎないようにしたつもりだったけど、たぶん出ていた。

「ただ、日程については、確認してからお返事を。」

「はい。すみません。」

浮かれかけた背筋が伸びた。
まだまだだった。
それでも、教わったことが一つ、自分でもできたのは嬉しかった。


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