担降りしたはずの推しが、隣に引っ越してきました

プロローグ

大学受験のために上京した十八歳の春。
美咲にとって、東京は憧れの街であると同時に、ひどく心細い場所だった。
慣れないホテルの部屋。
見慣れない天井。
窓の外には、夜になっても消えない無数の明かり。
明日は本命の入試だった。これまでにもう2校落ちている。受験のための滞在費もばかにならない。
参考書を開いては閉じ、覚えたはずの公式を何度も見直しているうちに、頭の中がいっぱいになった。
「……もう無理かも」
誰に言うでもなく呟いて、テレビのリモコンを手に取った。
気分転換のつもりだった。
東京って、テレビ番組も多いんだな。
そんなことをぼんやり考えながらチャンネルをかえていると、音楽番組が映った。
ステージの上に、四人の青年が立っている。
眩しいほどの照明。
揃ったダンス。
客席から響く歓声。
そして、中央に立つ青年が歌い始めた。
――大丈夫。
――立ち止まっても、また歩き出せばいい。
その歌声に、美咲は手を止めた。
グループの名前は、Bright Direction。
TAKUMIこと北山巧実。
DAIKIこと南川大樹。
KAITOこと東田海斗。
そして、SYUこと西島愁。
そのときの美咲は、彼らがどんなグループなのかも、どれほど人気があるのかも知らなかった。
ただ、歌が胸に響いた。
不安でいっぱいだった心に、誰かがそっと手を添えてくれたような気がした。
曲が終わっても、美咲はしばらく動けなかった。
「……もう少しだけ、頑張ってみようかな」
それが、美咲とBright Directionの出会いだった。
そして――西島愁との、最初の出会いでもあった。
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