担降りしたはずの推しが、隣に引っ越してきました

西島愁という人

それから、愁は本当にただの隣人だった。
エレベーターで会えば、
「おはようございます」
「今日、早いですね」
そんな短い会話をするだけ。
芸能人とファン。
そんな関係ではない。
同じマンションに住んでいる、ただの隣人。
それが不思議だった。
ある日、エレベーターの中で聞かれた。
「いつも夜遅くまで電気ついてるよね」
「仕事してるんです」
「何の仕事?」
「……小説を書いてます」
愁が少し驚いた。
「作家?」
「まだ、そんな大したものじゃないですけど」
「すごいじゃん」
十年前のSYUなら、こんなふうに言わなかったかもしれない。
テレビの中にいた彼とは違う。
今の愁は、休みの日には少し無精ひげを伸ばし、穏やかに笑う。
華やかさの奥に、静かな疲れが見える。
それが余計に、美咲の心をかき乱した。
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