転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!

 ロイドは意味深な笑みを浮かべ、グラスをジークに差し出した。
 ジークは無言でグラスを合わせる。
 冷たい音が、彼の内に燃える警戒心をさらに煽った。

「異物、か」

「判断を下すのは陛下と教皇だろう。だが、俺の個人的な見解を言うなら……」

 ロイドの声が低くなる。

「まるで、誰かの魂が、リオ・アリミヌエの器に入り込んだように見える。故に異物だ。……ま、たとえ生意気に物言う聖女になったとしても、俺の食指には引っかからないな。俺の記憶が確かなら、あの身体は女としての魅力など皆無の、貧相すぎるガキだったからな」

 ロイドはグラスを置くと、不意に真面目な作り笑顔を顔に張り付けた。

(……いまのあいつを知りもしないくせに)
 
 ジークは内心で冷たく吐き捨てながら、グラスを傾け、一気に飲み干す。
 彼の喉が上下する様子を、ロイドは楽しそうに眺めていた。

「ジーク。お前は、王の犬か?」

 ロイドの言葉はそこで途切れる。
 ジークはロイドから引き出したい言葉をほぼ引き出したと理解し、グラスを叩きつける様にテーブルに置いた。

「……相変わらず、可愛げのない堅物だな。だが、その頑固さが、いつかお前の身を滅ぼすぞ」

 何も答えないジークに対し、そう言い残すとロイドは席を立った。
 一人残され、静かにグラスを見つめる彼の頭の中には、理央が不器用に祈りの詩を口ずさんだときの姿が浮かんでいた。

 もし、聖女が本当に奇跡を起こせる存在に変質したのだとしたら、ムールブルク派と教会上層部の双方にとって最大の脅威となる。
 そして同時に、この歪んだ体制を救う唯一の希望となる可能性も秘めている。

「俺の信じるもの……か」

 その言葉は、誰に聞かせるでもなく、夜の闇に吸い込まれていった。
< 112 / 151 >

この作品をシェア

pagetop