転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!
高窓から月光が差し込む中、カティスは一人、祭壇前の大理石に膝をついていた。
床の上には、刺客襲撃の報告と、それに関する諸々の報告書が並べられている。
「――まさか、アリシア妃殿下が、自らここまで露骨な物理的手段を使うとは……」
手にした報告書の端が、かすかに震えていた。
神力という不確かな信仰の核を、教会はこれまで慎重に管理してきた。
だからこそ、異物である当代聖女の扱いには、表向き封印という形で穏便に抑え込むつもりだった。
だが、アリシア王太子妃が私情で暴走し、教会内に刺客まで放ったとなれば話は別だ。
「これでは、教会の威信どころか、統治構造自体が揺らぎかねない……」
眉間に皺を寄せたカティスは、静かに立ち上がると、上層階へと足を向けた。
黄金と深紅の装飾が施された静謐な空間で、教皇シーリィーゼは悠然と香を焚いていた。
柔らかなクッションの山に埋もれるように、茫洋とした目つきで、銀杯を手にしている。
「おや」
「猊下、休息の刻限が近いというのに恐縮でございます。……少々、穏やかでない件についてご報告があり……」
カティスは丁寧に膝をつき、うやうやしく書状を差し出す。
それを一読した教皇の表情は、僅かに陰る。
「……この襲撃が、王太子妃アリシア殿下によるものだと?」
「明言はされておりませんが、状況証拠としては充分かと」
「なるほど……ムールブルク侯爵家からの多額の寄進を考えれば、荒立てるのは避けたいものだのう」
カティスの目が細くなる。
「ですが、ムールブルク侯爵家とのこれ以上の緊密な関係は、民衆から逆に疑念を招くことになるやもしれません」
教皇は、長く指を組んで沈黙した。
やがて、狡猾な笑みを浮かべる。
「ふむ。我らが守るべきは、信仰と教会の秩序。……欺きの帳を、一刻も早くおろさねばならんのう」