転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!

「彼女たちは、何ですか? ハーラン枢機卿」

 一歩、また理央は通路を前に進む。

「なぜ、侍女でもない無実の少女たちが、あのように怯えた様子で教会の地下牢に不当に捕らわれていたのですか?」

「し、知らんぞ! わしは!」

 理央は薄く笑って、懐から紙片を取り出す。

「ここに、『魂ごと灰にせよ』と書かれた命令書があります。しかもご丁寧に印章付きで。ハーラン卿はウェルバ家のご出身でしたね。生家の印章をお忘れになるには、すこし早いのではないかしら? これは神の御心? それともあなたたちの保身のための決裁書?」

 ハーランが青ざめた顔で叫ぶ。

「そんなもの知らん! 捏造だ! 偽造だ!」

「そう、まあ言い逃れは良いでしょう。ゆっくり思い出してください、裏の地下洞でね」

「お前は、何を言っているんだ!?」

 理央が人差し指を奥に突き付けるよう指さすと、すかさず親聖女派の下級神官達がハーランを取り囲む。

「お前たちまで、なんなんだ! 不敬にあたるぞ! 免職にされたいのか!?」

 うっすらと微笑みながらハーランが強制的に退場させられるのを見届け、理央は場内に視線を巡らせる。
 既に腰を抜かし、ルメル枢機卿に支えられている教皇。
 両腕を組み、瞳を閉じて何かもごもごと現実逃避のようにつぶやいているバルデュス。
 次なる獲物は、こちらを刺すように睨みつけ、乱暴な手つきで書簡を掲げたカティスだ。

「聖女は神の言葉を勝手に、ね、捏造し——捏造した為」

 理央は静かにカティスに対峙し、言葉の続きを待っている。

「した為――続きをどうぞ、カティス卿」

「聖なる裁きの、裁定が、下されたのだっっ。聖教会は不完全な、リオ・アリミヌエを、処断せざるを得ない!」

「不完全とは?」

 愛らしい仕草で理央は小首を傾げる。
 カティスは、唾を飛ばしながら言葉を吐き捨てる。

「だから、お前は、神の言葉を――」

「神の声を聞いたと豪語する『自称神官』は何人もいるけれど、奇跡を実際に起こしたのは誰? ……私よ」

 カティスのでっぷりとした腹は目前にある。
 この男が食い潰した横領と利権の重さを象徴している。
 触るのも本当なら嫌なのだが、理央は懐からレースの付いたハンカチを指先にかけたあと、老枢機卿の喉元をトスン、と突く。

「ばーん」

「――ひ、ッ!」

「なんてね、撃つわけないでしょ。でもまだ上手に魔力を制御できてないから、うっかり撃ちぬいちゃったらごめんなさいね。労災は下りないから気をつけて」

 大きな音を立てて、カティスが情けなく尻から床に転がった。
 獲物を逃がすまいと、転がった男の纏う聖衣の裾をつま先で踏みつけて、唇を釣り上げて笑う姿は、慈愛の聖女とは真逆である。
< 139 / 151 >

この作品をシェア

pagetop