図書室の恋だより〜君とこの先もページをめくりたい〜

第1話 図書委員に立候補したのは



四月。



高校二年生になって三日が経った。



ほとんどのクラスメイトがまだ新しいクラスに慣れず、教室にはどこかぎこちない雰囲気が漂っている。



私、西本栞(にしもと しおり)は、そんな雰囲気を感じながらも、いつものように自分の席に座って、本を読んでいる。



私は本が好き。



同級生が部活や恋愛などに青春を捧げる中、私の趣味は読書だけ。

少し地味かもしれないけど、それが私。





ふいに、教室の前方から女子たちのはしゃいだ声が耳に届いた。



「汐留、今日遊ぼうよ」

「汐留くん、お昼一緒に食べない?」



見なくても分かってしまう。


女子たちが汐留朔(しおどめ さく)くんの周りを囲んでいる。


クラスに目立たない人がいるなら、その逆で、目立つ人だっている。



汐留くんは、クラスの中で一番目立つ男の子。



背が高く、顔も整っている。

クールで冷たい印象なのに、なぜか彼の周りには、いつも人が集まっている。


汐留くんとは高校二年生になってから初めて同じクラスになった。



でも、私とは住む世界が違う気がする。

きっとこのまま、ほとんど話すこともなく卒業するんだろうな。





始業のチャイムが鳴った。



「はーい、席について」



担任の女性教師、川崎先生が入ってきた。



先生のかけ声を合図に、クラスメイトたちが、わらわらと自分の席へと戻っていく。

私も栞を本に挟んで、そっと閉じ、机の中に入れた。



「ホームルームを始めます。昨日も言ったとおり、委員会や係を決めるので、みんな積極的に手を挙げてね」



いよいよだ――。

私は知らず知らずのうちに、膝の上で両手を握りしめていた。

セーラー服のスカートに、しわが寄る。



川崎先生が、少し声を張り上げながら、委員会を一つずつ読み上げていく。


みんな本当に積極的に立候補するので、委員会決めはサクサクと進んでいく。



「じゃあ、次は図書委員。女子でやりたい人」



そう先生が言った瞬間、教室がしんと静まり返った。



一方で、私は体に緊張が走る。

誰も手を挙げてないのを目で素早く確認し、おずおずと手を挙げた。



「はい、西本さんね」

先生が私の名前を黒板に書き込んでくれる。


ほっとため息を吐く。


よかった。今年も図書委員になれた。



うちの学校の図書委員は、ほかの委員会と比べて人気がない。



まず、図書室を利用する高校生が少ないため、たいした仕事もなく、やや退屈。



そして男性の司書、草野(くさの)先生がとにかく無愛想で、言い方もきつくて厳しい。




でも、私は図書室も、図書委員も好き。

たくさんの本に囲まれ、本のために何かができる時間が楽しい。




「じゃあ、次は男子」



あ、そうだ。

委員会は男女一名ずつ。

去年も人気がなくて、じゃんけんで負けた男子がなった。



今年もそうなるだろうな。

そう思っていたら、教室の前方で、すっと誰かが手を挙げた。



えっ?



多分、この瞬間、クラス全員が驚いたと思う。



汐留くんが手を挙げている。



恐る恐るといった感じで手を挙げた私と違って、汐留くんは、なんでもないことのように自然と手を挙げていた。



「汐留くんね」

川崎先生は特に気にする様子もなく、私の名前の隣に、汐留くんの名前を書いた。



女子の声があちこちから聞こえてくる。

「えー、なんで図書委員?」

「私もやりたいー」

「でもあの司書がいる図書室だよ。絶対面倒だよ」



な、なんでこんなことに……。



人気のない図書委員に、クラス一の人気者である汐留くんが立候補したのは、確かに気になる。



でも、それよりもこの騒ぎ。

私はどうしたらいいの?

もし他の子も立候補するとなったら……仕方ないかな。潔く辞退しよう。

気の弱い私は、人と争うのがとても苦手だ。




そう思ったとき、



「後出しは良くないと思いまーす」



と男子の声が聞こえてきた。



汐留くんの後ろの席に座っている、谷口涼太(たにぐち りょうた)くんだった。

爽やかで陽気な性格で、汐留くんと同じく女子に人気がある。


谷口くんは、汐留くんと仲がよさそうだった。



谷口くんの一言で黙り込む女子もいれば、「えー」と反発する女子もいた。



最後は先生の


「そのとおりです。さ、次の委員決めるよ」


という言葉で、全員渋々口をつぐんだ。



ひとまず、図書委員の取り合いにならなかったことに、安堵する。


でも、後で他の女子たちにいろいろ言われないか不安だな……。





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