図書室の恋だより〜君とこの先もページをめくりたい〜
第1話 図書委員に立候補したのは
四月。
高校二年生になって三日が経った。
ほとんどのクラスメイトがまだ新しいクラスに慣れず、教室にはどこかぎこちない雰囲気が漂っている。
私、西本栞は、そんな雰囲気を感じながらも、いつものように自分の席に座って、本を読んでいる。
私は本が好き。
同級生が部活や恋愛などに青春を捧げる中、私の趣味は読書だけ。
少し地味かもしれないけど、それが私。
ふいに、教室の前方から女子たちのはしゃいだ声が耳に届いた。
「汐留、今日遊ぼうよ」
「汐留くん、お昼一緒に食べない?」
見なくても分かってしまう。
女子たちが汐留朔くんの周りを囲んでいる。
クラスに目立たない人がいるなら、その逆で、目立つ人だっている。
汐留くんは、クラスの中で一番目立つ男の子。
背が高く、顔も整っている。
クールで冷たい印象なのに、なぜか彼の周りには、いつも人が集まっている。
汐留くんとは高校二年生になってから初めて同じクラスになった。
でも、私とは住む世界が違う気がする。
きっとこのまま、ほとんど話すこともなく卒業するんだろうな。
◇
始業のチャイムが鳴った。
「はーい、席について」
担任の女性教師、川崎先生が入ってきた。
先生のかけ声を合図に、クラスメイトたちが、わらわらと自分の席へと戻っていく。
私も栞を本に挟んで、そっと閉じ、机の中に入れた。
「ホームルームを始めます。昨日も言ったとおり、委員会や係を決めるので、みんな積極的に手を挙げてね」
いよいよだ――。
私は知らず知らずのうちに、膝の上で両手を握りしめていた。
セーラー服のスカートに、しわが寄る。
川崎先生が、少し声を張り上げながら、委員会を一つずつ読み上げていく。
みんな本当に積極的に立候補するので、委員会決めはサクサクと進んでいく。
「じゃあ、次は図書委員。女子でやりたい人」
そう先生が言った瞬間、教室がしんと静まり返った。
一方で、私は体に緊張が走る。
誰も手を挙げてないのを目で素早く確認し、おずおずと手を挙げた。
「はい、西本さんね」
先生が私の名前を黒板に書き込んでくれる。
ほっとため息を吐く。
よかった。今年も図書委員になれた。
うちの学校の図書委員は、ほかの委員会と比べて人気がない。
まず、図書室を利用する高校生が少ないため、たいした仕事もなく、やや退屈。
そして男性の司書、草野先生がとにかく無愛想で、言い方もきつくて厳しい。
でも、私は図書室も、図書委員も好き。
たくさんの本に囲まれ、本のために何かができる時間が楽しい。
「じゃあ、次は男子」
あ、そうだ。
委員会は男女一名ずつ。
去年も人気がなくて、じゃんけんで負けた男子がなった。
今年もそうなるだろうな。
そう思っていたら、教室の前方で、すっと誰かが手を挙げた。
えっ?
多分、この瞬間、クラス全員が驚いたと思う。
汐留くんが手を挙げている。
恐る恐るといった感じで手を挙げた私と違って、汐留くんは、なんでもないことのように自然と手を挙げていた。
「汐留くんね」
川崎先生は特に気にする様子もなく、私の名前の隣に、汐留くんの名前を書いた。
女子の声があちこちから聞こえてくる。
「えー、なんで図書委員?」
「私もやりたいー」
「でもあの司書がいる図書室だよ。絶対面倒だよ」
な、なんでこんなことに……。
人気のない図書委員に、クラス一の人気者である汐留くんが立候補したのは、確かに気になる。
でも、それよりもこの騒ぎ。
私はどうしたらいいの?
もし他の子も立候補するとなったら……仕方ないかな。潔く辞退しよう。
気の弱い私は、人と争うのがとても苦手だ。
そう思ったとき、
「後出しは良くないと思いまーす」
と男子の声が聞こえてきた。
汐留くんの後ろの席に座っている、谷口涼太くんだった。
爽やかで陽気な性格で、汐留くんと同じく女子に人気がある。
谷口くんは、汐留くんと仲がよさそうだった。
谷口くんの一言で黙り込む女子もいれば、「えー」と反発する女子もいた。
最後は先生の
「そのとおりです。さ、次の委員決めるよ」
という言葉で、全員渋々口をつぐんだ。
ひとまず、図書委員の取り合いにならなかったことに、安堵する。
でも、後で他の女子たちにいろいろ言われないか不安だな……。