好きになる前に、恋人になった――いつか、君につながる

最初から決めてた

――奈緒――

企画会議が始まる15分前には、ほぼ全員が揃っていた。

私はノートPCを開き、今日確認したいポイントにもう一度目を通した。

今回の案件は、呉凱の大規模なファンミーティング。プレミアム・ライフスタイルブランド「TOVEN」が後援するイベントだ。

ブランド、制作会社、呉凱の事務所。そして、彼本人。大事にしたいものは、少しずつ違う。

だから、今日の会議で全部を決めようとは思っていない。少なくとも、何を優先するのかだけは揃えたい。

PCの右上に表示された時刻を見る。あと3分。

実は、少し緊張してきてる。
ううん、少しどころかかなり。

でも、私はVERAを代表して来た責任者。信頼してもらえるように振る舞わないと。

ゆっくり深呼吸する。
落ち着いて。大丈夫。

隣で、小さく息を吐く音がした。

自分から出たのかと思った。
違う。隣に座るブランド責任者からだった。

「Dean能来参加会议,真的很难得」
(Deanが参加してくれるの、本当に珍しいですね)

緊張を隠すように、私は笑顔でうなずいた。

「嗯,他特意为今天的会议留出了时间」
(ええ。今日のために時間を空けてくれました)

彼のスケジュールを押さえるのが難しいことは、今回の案件に入ってすぐにわかった。

通常、こうした企画会議は、ブランド、制作会社、事務所の間で進める。本人に確認が必要なことは、事務所を通して聞く。

今回も、企画を作り始めた段階で、私はマネージャーの明(ミン)さんを通して、彼への質問をいくつか送っている。

ファンと直接会う時間を、本人はどう考えているのか。
どんな気持ちでファンに帰ってほしいと思っているのか。

書面で返ってきた回答は、何度も読み返した。短い文章の中にも、彼なりの考えがあった。
だから、直接話を聞いてみたいと思った。

無理を承知でお願いしたけれど、明さんが彼の予定を調整してくれた。会議に参加してくれると決まったとき、私は決めていた。

今日は絶対に、本人の意見を聞こう。

そのとき、会議室のドアが開いた。
空気が変わった。明らかに。

呉凱。

誰かが姿勢を正し、誰かが話すのをやめる。ブランド責任者はすぐに立ち上がった。私も立つ。

入ってきた彼は、写真や映像で見るより、ずっと落ち着いた印象だった。

背が高く、姿勢がいい。顔立ちは整っている。
でも、ただ端正というだけじゃない。

自分がどう見られるのかを知っている。そんな余裕が、立ち方や視線からも感じられた。
自然と目がいく。

ブランド責任者に声をかけられると、彼はすぐに笑った。
その笑顔につられるように、さっきまで少し硬かった会議室の空気が緩む。

わ……すご。

そのまま私も紹介される。
一歩前に出て、名刺を差し出し、挨拶をした。

彼は名刺に一度視線を落として、それから顔を上げた。

「你好,奈绪。请多关照」
(初めまして、奈緒。よろしくお願いします)

あ、名前で呼んでくれた。
早速。嬉しい。

それに、きちんと目を見て話してくれる。声も穏やかだ。でも、その笑顔の奥には、どこか意志の強さを感じた。

この人は、何を大事にしているんだろう。

そんなことを思った。
そのあと、明さんとも挨拶を交わした。仕事のチャットでは何度もやり取りしているけれど、直接会うのは今日が初めてだった。

想像どおり、明るそうな人。
少しほっとする。

そしてみんな席につき、私はPCの画面を共有して会議を始めた。
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