好きになる前に、恋人になった――いつか、君につながる

一番後ろの席から

――凱――

次に奈緒を見かけたのは、ファンミーティング当日だった。

控え室でメイクをしているところへ、ノックの音がする。小明が返事をすると、ドアが開いた。

奈緒だった。

今日は会議のときより動きやすそうな服装だ。ジャケットを着て、手にはタブレットを持っている。

「吴先生,今天也请多关照」
(呉さん、今日はよろしくお願いします)

「嗯,也请多关照」
(うん。こちらこそよろしく)

奈緒は俺を見て、少し笑った。

「Q&A的时间我稍微留长了一点。如果聊得太久,我也跟主持人说好了,可以随时调整」
(Q&Aは少し長めに時間を取っています。でも、長すぎるようなら調整できるよう、司会にも伝えてあります)

進行表はもう確認している。先日の会議で決まった内容も、ちゃんと盛り込まれていた。

「嗯,谢谢。没问题,我挺能说的」
(うん、ありがとう。大丈夫。俺、話すの得意だから)

奈緒の顔が、ぱっと明るくなった。

わかりやすい。
つい笑ってしまう。

「……看起来很开心」
(……楽しそうだね)

奈緒が一瞬目を瞬いた。

「是吗?」
(そうですか?)

少し照れたように笑う。

「我刚才去外面看了一下」
(さっき、会場の外を少し見てきたんです)

「外面?」
(外?)

「嗯。粉丝已经开始排队了」
(はい。もうファンの方たちが並び始めていて)

奈緒は思い出したように笑った。

「大家都特别开心,看起来都等不及要见到您了」
(みなさん、本当に嬉しそうで。呉さんに会えるのが待ちきれないみたいに)

こういうことを真正面から言われると、さすがに照れる。

「你还特意去看了?」
(わざわざ見に行ったの?)

「嗯。想看看」
(はい。見ておきたくて)

簡単に言う。
でも、ファンの様子を聞いて、俺もなんだか張り合いが出てきた。

そのとき、奈緒が腕時計を見た。

「我得去现场了」
(そろそろ会場に戻らないと)

「去吧」
(行ってきて)

「好的,那待会儿见」
(はい。では、またあとで)

「嗯,待会儿见」
(うん。またあとで)

奈緒は小明にも会釈して、控え室を出ていった。
ドアが閉まる。

忙しそうだな。
でか、俺より楽しみにしてないか。
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