好きになる前に、恋人になった――いつか、君につながる
ファンミーティングが始まった。

照明が落ちて、会場いっぱいに歓声が響く。
ステージへ出る。

目の前にいるファンを見る。
声を聞く。
返す。

客席の反応を見ながら、話す間合いを変える。
いつも通り。
ただ今日は、いつもよりも話す内容が近い。

Q&Aに入る。
会場に来られなかったファンから届いた質問も混ざっていると司会が説明すると、客席から声が上がった。

いくつか答えたあと、司会が次の質問を読む。

「最近训练的时候,有没有特别喜欢的,或者其实不太喜欢、但还是会做的项目?」
(最近のトレーニングで、特に好きなものや、正直あまり好きじゃないけどやっているものはありますか?)

思わず笑った。

「有」
(あります)

会場が少し静かになる。

「前段时间为了拍一部戏,需要把身体练得跟平时不太一样」
(少し前に撮ったドラマで、普段とは少し違う身体を作る必要があったんです)

「那时候有些训练,我真的不太喜欢」
(あのとき、正直あまり好きじゃないトレーニングもありました)

司会がすぐに聞く。

「比如呢?」
(たとえば?)

「练腿」
(脚トレ)

一気に笑いが起きた。
俺も笑う。

「真的很累」
(本当にきついんですよ)

「但是没办法,角色需要」
(でも仕方ない。役に必要だったので)

それから少し考える。

「不过练了一段时间以后,反而开始觉得挺有意思」
(でも、しばらく続けてみたら、逆にちょっと面白くなってきて)

「身体真的会变,动作也会变」
(身体が本当に変わるんです。動き方も変わる)

「那时候我才发现,训练不只是为了改变外形」
(そのとき、トレーニングは見た目を変えるためだけじゃないんだなって気づきました)

「走路的方式、站姿,甚至整个人的状态,都会跟着变」
(歩き方や立ち方、それにその人全体の雰囲気まで変わるんです)

司会が笑いながら聞く。

「所以后来喜欢上练腿了吗?」
(じゃあ、その後は脚トレが好きになったんですか?)

一拍置く。

「……还没有」
(……まだです)

会場がどっと沸いた。
俺も笑ってしまう。

「但是不会逃了」
(でも、もう逃げません)

また拍手と笑い声が広がる。
楽しい。
こういう話なら、いくらでもできる。

その後も司会が質問を重ねる。
俺も、その場で思い出したことを話す。

客席から反応が返ってくる。

笑ったり。
驚いたり。
また声が上がったり。

気づけば、予定していた時間を少し越えていた。
司会が俺を見る。

俺も笑う。

「我是不是说太多了?」
(俺、話しすぎた?)

客席から一斉に否定する声が上がった。

さらに笑えてくる。
まだ話していたいくらいだ。

*

前半が終わり、一度ステージを降りる。
スタッフから水を受け取り、控え室までの道を歩いていると、少し先に奈緒がいた。

数人のスタッフと、進行表を確認している。
俺に気づくと、奈緒が話を切り上げ、こちらへ歩いてきた。

「吴先生,辛苦了」
(呉さん、お疲れさまです)

「嗯,你也辛苦了」
(うん、君もお疲れさま)

奈緒が少し笑う。

「我刚才去最后一排看了看,想确认一下舞台看得清不清楚」
(さっき、一番後ろの席からもステージがよく見えるか、確認してきたんです)

「怎么样?」
(どうだった?)

奈緒の表情が、少し明るくなる。

「看得很清楚」
(よく見えました)

「那就好」
(それはよかった)

「嗯,而且您说不喜欢练腿的时候,最后一排的人也都笑了」
(はい。それに、呉さんが脚トレは苦手だって話したときは、一番後ろの方たちも大笑いでした)

奈緒が思い出したように笑う。
つられて、俺も笑った。

そのとき、スタッフから奈緒に声がかかった。

「吴先生,那我先过去了。后半也请多关照」
(呉さん、では失礼します。後半もよろしくお願いします)

「嗯,待会儿见」
(うん。またあとで)

俺も控え室へ向かう。
一番後ろのファンまで、楽しんでくれていた。
後半も、いい時間にしよう。
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