屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
「どうして……そんなこと告発しても、あなたにはメリットは一つもないでしょう。私はあの屋敷が開発地区になれば、所有するあなたのためにもなると思って協力してあげたのに!」
「そんなことしてほしいだなんて、私は一言も言っていません」
「私より夏音を選ぶの? どうしてよ。私の方が夏音なんかより朝霧家にはふさわしいでしょ。血筋も家柄も……!」
玲子さんの声に、清正さんは私をそっと抱き寄せた。
「勘違いしているようだから言っておきますが、夏音はれっきとした九条の人間です。九条の人間が代々大切に守ってきた土地も、屋敷も、空間も……誰より長く、一人で守り続けてきたのだから」
混乱していた頭の中に、清正さんの言葉だけがゆっくりと染み込んでくる。
両親が亡くなってから、誰かに『あなたは九条の人間だ』と認めてもらえたことは一度もなかった。
だからこそ、その一言が、胸に痛いほど響いた。
「でも……!」
「そろそろ到着したようですよ」
清正さんが窓の外へ視線を向ける。
外には何台ものパトカーが停まっていた。叔父さんはその場に膝を折り、玲子さんも力なくへたり込んだ。
「俺は夏音と生きます。お二人も、これまでを冷静に振り返ることができたなら、もう一度、一からやり直してください。そのとき、夏音が望むのなら援助はします。妻の親戚ですから……」
そう言って清正さんは社長室を後にした。
会社を出るとき、入れ替わるように大勢の捜査員たちが会社の中へ流れ込んできた。