屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました

 それから、叔父と玲子さんは逮捕された。
 本来であれば、叔父たちは権利を手放さずに持ち続け、都市開発の候補地が住楽地区に決まるよう裏で動き、正式決定を待って土地を売却し、私を屋敷から追い出すつもりだったらしい。

 けれど清正さんが先に高額を提示して買収を持ちかけ、目先の現金欲しさから売却を決めた。それで、不正が明らかになったのだ。
 もしあのとき清正さんが動いてくれなかったら――。

 そう思うだけで、今でも背筋が冷たくなる。
 あの屋敷も、そこに詰まった思い出も、きっと二度と取り戻せなかっただろう。

 そして――。

「おめでとうございます!」
「おめでとう!」
「幸せになれよ!」

 今日は、私たちの結婚式だ。次々と飛び交う祝福の声と惜しみない拍手に包まれながら、私は清正さんの隣に立っていた。
 何度も込み上げてくる幸福感を噛み締めて……。

 隣にそっと視線を向けるたび、彼が穏やかな眼差しでこちらを見返してくれるのが信じられないほど嬉しくて、私は何度も微笑んでいた。

 結婚式を終えた私たちは、そのまま三次会として屋敷の庭を開放していた。
 夕暮れに染まり始めた空の下では、子どもたちが芝生の上を元気いっぱいに走り回っている。大人たちもグラスを片手に、思い思いの場所で談笑して笑い声を響かせていた。

 ふと少し離れた場所へ目を向けると、庭の景色を眺めながら静かに立っている健太くんの姿が見えた。
 いつものような元気がない。私は足を向けて声をかけた。

「どうしたの?」

 健太くんは珍しくこちらを振り向かず小さく口を開く。

「また、遊びに来ていいんだよな」
「うん、もちろんだよ」
「本当に?」
「当たり前でしょ。ここは健太くんにとっても大切な場所なんだから。健太くんもここを好きになってくれて私は嬉しいんだ。いつでもここに遊びにきてよ」
「そっか」

 ようやくこちらを振り返った健太くんは、安心したように笑みを浮かべて、他の子どもたちの方へ走っていった。
 彼の表情を見た私は、ここで過ごした時間を大切に思ってくれている人が、今も、きっと未来にもいるのだろうと改めて実感していた。
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