君のとなり 〜約束の168〜
第11章 近づく距離
文化祭の準備が始まって、少しずつ忙しくなってきた。
放課後になると、実行委員の仕事で教室を移動することも増えた。
今日も私は、資料を抱えて廊下を歩いていた。
「瑠夏ちゃん」
後ろから声がした。
振り返る。
「あ……」
昨日会った先輩だった。
「拓実……先輩?」
「そう、正解」
先輩が嬉しそうに笑った。
「名前、覚えてくれたんだ」
「はい」
昨日、帰ってから何度か思い出した。
拓実先輩。
ちゃんと覚えた。
「よかった」
そう言って、先輩は私の持っている資料に目を向けた。
「また一人で持ってる」
「今日はそんなに多くないです」
「本当に?」
「はい」
「じゃあ確認」
先輩が一番上のファイルをひょいと取る。
「あっ」
「これくらいなら持ってもいいでしょ?」
「……はい」
「よし」
先輩は満足そうに笑った。
「今日は何するの?」
「企画書の確認です」
「じゃあ一緒だ」
「先輩も?」
「うん。俺も同じ担当」
並んで歩く。
昨日初めて話したばかりなのに。
今日はもう、昨日よりずっと自然に話せていた。
「そういえば」
先輩が私を見る。
「新体操、毎日練習?」
「基本はそうです」
「大変じゃない?」
「慣れてるので」
「小さい頃から?」
「はい。小学生の頃にやってました」
「じゃあ経験長いんだ」
「でも中学生の間はやってなかったので、ちょっとブランクあります」
「それでも上手いんだ?」
「……先輩、見てたんですよね?」
「うん」
「じゃあ分かるじゃないですか」
「分かるよ」
先輩が笑った。
「すごいと思ってる」
胸の奥が、ほんの少しだけくすぐったくなる。
「……ありがとうございます」
「照れてる?」
「照れてません」
「絶対照れてる」
「もう!」
先輩が声を出して笑った。
私もつられて笑う。
しばらく歩いてから、私はふと思った。
「そういえば、先輩は部活何してるんですか?」
「あれ、言ってなかった?」
「聞いてないです」
「そっか」
先輩は少し考えるように首を傾けた。
「陸上部」
「陸上?」
「うん」
「じゃあ、体育祭とか速そうですね」
「どうだろ」
先輩が苦笑する。
「最近、後輩に負けそう」
「えっ、先輩なのに?」
「そこ笑うところ?」
「ふふっ」
「ほら、笑った」
「だって……」
先輩が少しだけ拗ねたような顔をする。
その表情がおかしくて、私はまた笑ってしまった。
「でも、陸上って大変そうですね」
「まあね。でも好きだから続けてる」
「好きなんですね」
「うん」
先輩は少しだけ前を向いた。
「走ってると、余計なこと考えなくていいから」
その横顔が、さっきまでとは少し違って見えた。
いつも笑っている人だけど。
こういう顔もするんだ。
私は何となく、先輩の横顔を見ていた。
「瑠夏ちゃん?」
「え?」
「どうした?」
「……なんでもないです」
「そう?」
「はい」
先輩は不思議そうにしながらも、それ以上は聞かなかった。
*
その日の帰り。
文化祭の資料を提出し終え、私たちは昇降口まで一緒に歩いた。
「今日、結構進んだね」
「はい」
「これなら何とか間に合いそう」
「よかったです」
靴を履き替える。
校門へ向かいながら、先輩がふと足を止めた。
「じゃあ、また明日」
「はい。また明日」
先輩が手を振る。
私も手を振り返した。
少し歩いてから、何となく振り返る。
先輩はもう歩き出していた。
私はその背中を少しだけ見つめてから、前を向いた。
明日も、会える。
そう思ったら。
なぜか、少しだけ嬉しかった。
私は小さく笑って、家への道を歩き出した。
放課後になると、実行委員の仕事で教室を移動することも増えた。
今日も私は、資料を抱えて廊下を歩いていた。
「瑠夏ちゃん」
後ろから声がした。
振り返る。
「あ……」
昨日会った先輩だった。
「拓実……先輩?」
「そう、正解」
先輩が嬉しそうに笑った。
「名前、覚えてくれたんだ」
「はい」
昨日、帰ってから何度か思い出した。
拓実先輩。
ちゃんと覚えた。
「よかった」
そう言って、先輩は私の持っている資料に目を向けた。
「また一人で持ってる」
「今日はそんなに多くないです」
「本当に?」
「はい」
「じゃあ確認」
先輩が一番上のファイルをひょいと取る。
「あっ」
「これくらいなら持ってもいいでしょ?」
「……はい」
「よし」
先輩は満足そうに笑った。
「今日は何するの?」
「企画書の確認です」
「じゃあ一緒だ」
「先輩も?」
「うん。俺も同じ担当」
並んで歩く。
昨日初めて話したばかりなのに。
今日はもう、昨日よりずっと自然に話せていた。
「そういえば」
先輩が私を見る。
「新体操、毎日練習?」
「基本はそうです」
「大変じゃない?」
「慣れてるので」
「小さい頃から?」
「はい。小学生の頃にやってました」
「じゃあ経験長いんだ」
「でも中学生の間はやってなかったので、ちょっとブランクあります」
「それでも上手いんだ?」
「……先輩、見てたんですよね?」
「うん」
「じゃあ分かるじゃないですか」
「分かるよ」
先輩が笑った。
「すごいと思ってる」
胸の奥が、ほんの少しだけくすぐったくなる。
「……ありがとうございます」
「照れてる?」
「照れてません」
「絶対照れてる」
「もう!」
先輩が声を出して笑った。
私もつられて笑う。
しばらく歩いてから、私はふと思った。
「そういえば、先輩は部活何してるんですか?」
「あれ、言ってなかった?」
「聞いてないです」
「そっか」
先輩は少し考えるように首を傾けた。
「陸上部」
「陸上?」
「うん」
「じゃあ、体育祭とか速そうですね」
「どうだろ」
先輩が苦笑する。
「最近、後輩に負けそう」
「えっ、先輩なのに?」
「そこ笑うところ?」
「ふふっ」
「ほら、笑った」
「だって……」
先輩が少しだけ拗ねたような顔をする。
その表情がおかしくて、私はまた笑ってしまった。
「でも、陸上って大変そうですね」
「まあね。でも好きだから続けてる」
「好きなんですね」
「うん」
先輩は少しだけ前を向いた。
「走ってると、余計なこと考えなくていいから」
その横顔が、さっきまでとは少し違って見えた。
いつも笑っている人だけど。
こういう顔もするんだ。
私は何となく、先輩の横顔を見ていた。
「瑠夏ちゃん?」
「え?」
「どうした?」
「……なんでもないです」
「そう?」
「はい」
先輩は不思議そうにしながらも、それ以上は聞かなかった。
*
その日の帰り。
文化祭の資料を提出し終え、私たちは昇降口まで一緒に歩いた。
「今日、結構進んだね」
「はい」
「これなら何とか間に合いそう」
「よかったです」
靴を履き替える。
校門へ向かいながら、先輩がふと足を止めた。
「じゃあ、また明日」
「はい。また明日」
先輩が手を振る。
私も手を振り返した。
少し歩いてから、何となく振り返る。
先輩はもう歩き出していた。
私はその背中を少しだけ見つめてから、前を向いた。
明日も、会える。
そう思ったら。
なぜか、少しだけ嬉しかった。
私は小さく笑って、家への道を歩き出した。