君のとなり 〜約束の168〜
第12章 速まる鼓動
文化祭の準備が、少しずつ本格的になってきた。
放課後になると、実行委員のメンバーが集まり、校内の装飾や当日の準備について話し合う。
最初は少し緊張していたけれど。
最近は、ここに来ることが楽しみになっていた。
「瑠夏ちゃん、これお願いしてもいい?」
「はい」
拓実先輩から資料を受け取る。
「ありがとう。助かる」
「いえ」
拓実先輩は、誰かに仕事を頼むときも自然だった。
忙しそうにしている人がいれば、さりげなく手伝う。
意見がまとまらなければ、みんなの話を聞いて整理する。
学校で人気があるのも、なんとなく分かる気がした。
「瑠夏ちゃん」
「はい?」
「これ、こっちじゃない?」
「あ……」
手元を見る。
確かに、置く場所を間違えていた。
「すみません」
「大丈夫」
拓実先輩が笑う。
「俺もよく間違えるから」
「先輩でも間違えるんですか?」
「俺をなんだと思ってるの?」
「もっと完璧な人かと」
「それ、褒めてる?」
「……たぶん」
「たぶんかぁ」
先輩が笑う。
私もつられて笑った。
最初は少し緊張していたのに。
拓実先輩と話すことが、いつの間にか楽しくなっていた。
*
数日後。
放課後の教室では、文化祭の装飾準備をしていた。
壁に貼る飾りを作ったり、教室を飾ったり。
机の上には、色紙やテープ、画用紙がいっぱいに広がっている。
「これ、もう少し上かな?」
「そうですね。あと少しだけ」
私は椅子の上に乗って、壁に飾りを貼っていた。
もう少し。
あと少しだけ手を伸ばせば届く。
「瑠夏ちゃん、そこ俺がやるよ」
「大丈夫です。これくらいなら」
「でも、結構高いよ」
「大丈夫ですって」
私は笑った。
「もうちょっとなので」
「……そう?」
「はい」
拓実先輩は少し心配そうに私を見る。
「じゃあ、無理しないでね」
「はい」
私はもう一度、手を伸ばした。
指先が飾りに触れる。
「よし……」
その瞬間。
私はバランスを崩し、椅子がぐらりと動いた。
身体が傾く。
「きゃっ……!」
「瑠夏!」
拓実先輩の声がした。
腰に腕が回る。
もう一方の腕が背中を支える。
そのまま、強く抱き止められた。
「……っ」
気づけば、私は拓実先輩の腕の中にいた。
顔が近い。
近すぎる。
目を合わせたまま、どちらも一瞬動けなかった。
「……大丈夫?」
「……はい」
自分でも分かるくらい、声が震えた。
「怪我してない?」
「してないです」
「よかった……」
拓実先輩が、ほっと息を吐く。
そして、私をゆっくり立たせた。
「……だから言っただろ」
「……え?」
「俺がやるって」
その言葉に、胸が大きく跳ねた。
「……すみません」
「謝らなくていいよ」
先輩が椅子を直す。
「もう、俺がやる」
「……はい」
拓実先輩が椅子に乗り、私が貼ろうとしていた飾りを取り付けていく。
私は少し離れたところから、その姿を見ていた。
さっきまでと同じ教室。
同じ放課後。
なのに。
私の心臓だけが、全然元に戻ってくれない。
さっきのことを思い出す。
腰に回った腕。
背中を支えてくれた手。
抱き止められたときの温かさ。
そして――。
近すぎた顔。
目が合った瞬間。
胸が、またドキッとした。
「瑠夏ちゃん?」
「……はいっ!」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
拓実先輩が少し笑う。
「ならよかった」
私は慌てて視線を逸らした。
顔が熱い。
きっと今、すごく赤い。
でも。
拓実先輩には、見られたくなかった。
「……完成」
「わあ……」
壁を見る。
綺麗に飾り付けられている。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
先輩が椅子から降りる。
「じゃあ、次これやろうか」
「はい」
いつも通りの声。
いつも通りの笑顔。
なのに。
私はもう、さっきまでと同じ気持ちではいられなかった。
拓実先輩が、少しだけ近い。
そんな気がした。
そして。
抱き止められたときの温かさが、いつまでも胸の奥に残っていた。
放課後になると、実行委員のメンバーが集まり、校内の装飾や当日の準備について話し合う。
最初は少し緊張していたけれど。
最近は、ここに来ることが楽しみになっていた。
「瑠夏ちゃん、これお願いしてもいい?」
「はい」
拓実先輩から資料を受け取る。
「ありがとう。助かる」
「いえ」
拓実先輩は、誰かに仕事を頼むときも自然だった。
忙しそうにしている人がいれば、さりげなく手伝う。
意見がまとまらなければ、みんなの話を聞いて整理する。
学校で人気があるのも、なんとなく分かる気がした。
「瑠夏ちゃん」
「はい?」
「これ、こっちじゃない?」
「あ……」
手元を見る。
確かに、置く場所を間違えていた。
「すみません」
「大丈夫」
拓実先輩が笑う。
「俺もよく間違えるから」
「先輩でも間違えるんですか?」
「俺をなんだと思ってるの?」
「もっと完璧な人かと」
「それ、褒めてる?」
「……たぶん」
「たぶんかぁ」
先輩が笑う。
私もつられて笑った。
最初は少し緊張していたのに。
拓実先輩と話すことが、いつの間にか楽しくなっていた。
*
数日後。
放課後の教室では、文化祭の装飾準備をしていた。
壁に貼る飾りを作ったり、教室を飾ったり。
机の上には、色紙やテープ、画用紙がいっぱいに広がっている。
「これ、もう少し上かな?」
「そうですね。あと少しだけ」
私は椅子の上に乗って、壁に飾りを貼っていた。
もう少し。
あと少しだけ手を伸ばせば届く。
「瑠夏ちゃん、そこ俺がやるよ」
「大丈夫です。これくらいなら」
「でも、結構高いよ」
「大丈夫ですって」
私は笑った。
「もうちょっとなので」
「……そう?」
「はい」
拓実先輩は少し心配そうに私を見る。
「じゃあ、無理しないでね」
「はい」
私はもう一度、手を伸ばした。
指先が飾りに触れる。
「よし……」
その瞬間。
私はバランスを崩し、椅子がぐらりと動いた。
身体が傾く。
「きゃっ……!」
「瑠夏!」
拓実先輩の声がした。
腰に腕が回る。
もう一方の腕が背中を支える。
そのまま、強く抱き止められた。
「……っ」
気づけば、私は拓実先輩の腕の中にいた。
顔が近い。
近すぎる。
目を合わせたまま、どちらも一瞬動けなかった。
「……大丈夫?」
「……はい」
自分でも分かるくらい、声が震えた。
「怪我してない?」
「してないです」
「よかった……」
拓実先輩が、ほっと息を吐く。
そして、私をゆっくり立たせた。
「……だから言っただろ」
「……え?」
「俺がやるって」
その言葉に、胸が大きく跳ねた。
「……すみません」
「謝らなくていいよ」
先輩が椅子を直す。
「もう、俺がやる」
「……はい」
拓実先輩が椅子に乗り、私が貼ろうとしていた飾りを取り付けていく。
私は少し離れたところから、その姿を見ていた。
さっきまでと同じ教室。
同じ放課後。
なのに。
私の心臓だけが、全然元に戻ってくれない。
さっきのことを思い出す。
腰に回った腕。
背中を支えてくれた手。
抱き止められたときの温かさ。
そして――。
近すぎた顔。
目が合った瞬間。
胸が、またドキッとした。
「瑠夏ちゃん?」
「……はいっ!」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
拓実先輩が少し笑う。
「ならよかった」
私は慌てて視線を逸らした。
顔が熱い。
きっと今、すごく赤い。
でも。
拓実先輩には、見られたくなかった。
「……完成」
「わあ……」
壁を見る。
綺麗に飾り付けられている。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
先輩が椅子から降りる。
「じゃあ、次これやろうか」
「はい」
いつも通りの声。
いつも通りの笑顔。
なのに。
私はもう、さっきまでと同じ気持ちではいられなかった。
拓実先輩が、少しだけ近い。
そんな気がした。
そして。
抱き止められたときの温かさが、いつまでも胸の奥に残っていた。