こいがえり ――変わってしまった君と、変わらない私。
「れんくん!」
「ん?」
「早く!」
「雫が早すぎんねん」
「だって公園だよ!」
「そんな走ったらあかんって」
「大丈夫!」
「お前の大丈夫は信用できへん」
「なんで!?」
「前も大丈夫言うて――」
「ほら、着いた!」
「人の話聞けや」
雫は笑いながら、公園へ走っていく。
蓮はその後ろを追いかけながら、何度も「走るな」と言った。
けれど。
雫にとって、外で遊ぶ時間は特別だった。
いつも、自由に走り回れるわけではない。
体調が悪ければ病院。
咳が続けば家で休む。
熱が出れば、楽しみにしていた予定もなくなる。
周りの子たちにとって普通のことが。
雫にとっては、時々、とても遠いものだった。
「雫ー!」
蓮が、少し離れた場所から呼ぶ。
「ボール行くでー!」
「うん!」
雫は嬉しそうに走った。
ボールを追いかける。
蓮が笑う。
雫も笑う。
何度も何度も。
ただ。
その楽しさは、急に終わった。
「……っ」
雫の足が止まる。
「雫?」
蓮は、すぐに気付いた。
「……だいじょ……」
雫が何か言おうとする。
けれど。
苦しくて、うまく言葉が出ない。
「……雫?」
蓮の声が変わる。
「どうしたん」
雫は胸元を押さえる。
呼吸が苦しい。
少しずつ。
うまく息が吸えなくなっていく。
「……れん……くん」
「しんどいん?」
雫は小さく頷く。
「……っ」
「座れる?」
蓮がすぐ近くへ来る。
雫は頷こうとした。
けれど。
足に力が入らない。
「雫!」
その場に座り込んでしまう。
「……ごめん」
「謝らんでええ!」
蓮の声が少し大きくなる。
雫の背中を支えながら。
「家帰ろ」
「……でも」
「でもちゃう」
「まだ……遊びたい」
「雫」
「……せっかく」
雫の目に涙が溜まる。
「……蓮くんと遊びたかったのに」
蓮は、一瞬だけ黙った。
それから。
「……また遊べるやろ」
「……」
「今日は帰ろ」
「……やだ」
「雫」
「……やだ」
雫が首を横に振る。
「みんなみたいに……もっと遊びたい」
蓮は何も言えなかった。
雫が。
どれだけ我慢しているのか。
蓮は、昔から知っていたから。
それでも。
「……今日はあかん」
蓮は、はっきり言った。
「雫がしんどいのに遊んでても、俺は楽しくない」
「……」
「家帰ろ」
雫は俯く。
ぽろっと、涙が落ちた。
「……ごめん」
「だから謝るなって」
「……」
蓮は雫の前に背中を向けた。
「乗って」
「……え?」
「おんぶしたる」
「重いよ」
「そーんな体してよく言うわもっと食え」
「でも」
「早よ」
「……」
「雫」
振り返った蓮が、少しだけ笑う。
「俺、結構強いで?」
「……ほんと?」
「ほんま」
雫は少しだけ迷って。
そっと蓮の背中に腕を回した。
「……よいしょ」
「……大丈夫?」
「雫こそ大丈夫か?」
「……うん」
「ほんまに?」
「……うん」
「嘘ついたらあかんで」
「……」
「ほらな」
蓮は、ゆっくり立ち上がった。
雫を背負って。
一歩ずつ。
一歩ずつ。
家へ向かう。
雫は蓮の背中に顔を埋めた。
「……れんくん」
「ん?」
「……ありがとう」
「うん」
「……ごめんね」
「謝らんでええって言うとるやろ」
「……でも」
「雫」
「ん?」
「俺がおる時くらい、頼ってええねん」
雫は黙った。
背中越しに聞こえる声。
まだ子どもなのに。
なぜか、とても安心できた。
「……じゃあ」
「ん?」
「……これからも、頼っていい?」
「当たり前やろ」
「ずっと?」
「ずっと」
「……ほんと?」
「何回聞くねん」
蓮が笑う。
雫も、小さく笑った。
「……だって、心配だから」
「何が?」
「蓮くんがいなくなったら」
蓮の足が。
一瞬だけ止まった。
「……」
「……どうしようって」
雫はまだ知らない。
その言葉が。
何年後かに。
自分自身を苦しくさせることを。
「ん?」
「早く!」
「雫が早すぎんねん」
「だって公園だよ!」
「そんな走ったらあかんって」
「大丈夫!」
「お前の大丈夫は信用できへん」
「なんで!?」
「前も大丈夫言うて――」
「ほら、着いた!」
「人の話聞けや」
雫は笑いながら、公園へ走っていく。
蓮はその後ろを追いかけながら、何度も「走るな」と言った。
けれど。
雫にとって、外で遊ぶ時間は特別だった。
いつも、自由に走り回れるわけではない。
体調が悪ければ病院。
咳が続けば家で休む。
熱が出れば、楽しみにしていた予定もなくなる。
周りの子たちにとって普通のことが。
雫にとっては、時々、とても遠いものだった。
「雫ー!」
蓮が、少し離れた場所から呼ぶ。
「ボール行くでー!」
「うん!」
雫は嬉しそうに走った。
ボールを追いかける。
蓮が笑う。
雫も笑う。
何度も何度も。
ただ。
その楽しさは、急に終わった。
「……っ」
雫の足が止まる。
「雫?」
蓮は、すぐに気付いた。
「……だいじょ……」
雫が何か言おうとする。
けれど。
苦しくて、うまく言葉が出ない。
「……雫?」
蓮の声が変わる。
「どうしたん」
雫は胸元を押さえる。
呼吸が苦しい。
少しずつ。
うまく息が吸えなくなっていく。
「……れん……くん」
「しんどいん?」
雫は小さく頷く。
「……っ」
「座れる?」
蓮がすぐ近くへ来る。
雫は頷こうとした。
けれど。
足に力が入らない。
「雫!」
その場に座り込んでしまう。
「……ごめん」
「謝らんでええ!」
蓮の声が少し大きくなる。
雫の背中を支えながら。
「家帰ろ」
「……でも」
「でもちゃう」
「まだ……遊びたい」
「雫」
「……せっかく」
雫の目に涙が溜まる。
「……蓮くんと遊びたかったのに」
蓮は、一瞬だけ黙った。
それから。
「……また遊べるやろ」
「……」
「今日は帰ろ」
「……やだ」
「雫」
「……やだ」
雫が首を横に振る。
「みんなみたいに……もっと遊びたい」
蓮は何も言えなかった。
雫が。
どれだけ我慢しているのか。
蓮は、昔から知っていたから。
それでも。
「……今日はあかん」
蓮は、はっきり言った。
「雫がしんどいのに遊んでても、俺は楽しくない」
「……」
「家帰ろ」
雫は俯く。
ぽろっと、涙が落ちた。
「……ごめん」
「だから謝るなって」
「……」
蓮は雫の前に背中を向けた。
「乗って」
「……え?」
「おんぶしたる」
「重いよ」
「そーんな体してよく言うわもっと食え」
「でも」
「早よ」
「……」
「雫」
振り返った蓮が、少しだけ笑う。
「俺、結構強いで?」
「……ほんと?」
「ほんま」
雫は少しだけ迷って。
そっと蓮の背中に腕を回した。
「……よいしょ」
「……大丈夫?」
「雫こそ大丈夫か?」
「……うん」
「ほんまに?」
「……うん」
「嘘ついたらあかんで」
「……」
「ほらな」
蓮は、ゆっくり立ち上がった。
雫を背負って。
一歩ずつ。
一歩ずつ。
家へ向かう。
雫は蓮の背中に顔を埋めた。
「……れんくん」
「ん?」
「……ありがとう」
「うん」
「……ごめんね」
「謝らんでええって言うとるやろ」
「……でも」
「雫」
「ん?」
「俺がおる時くらい、頼ってええねん」
雫は黙った。
背中越しに聞こえる声。
まだ子どもなのに。
なぜか、とても安心できた。
「……じゃあ」
「ん?」
「……これからも、頼っていい?」
「当たり前やろ」
「ずっと?」
「ずっと」
「……ほんと?」
「何回聞くねん」
蓮が笑う。
雫も、小さく笑った。
「……だって、心配だから」
「何が?」
「蓮くんがいなくなったら」
蓮の足が。
一瞬だけ止まった。
「……」
「……どうしようって」
雫はまだ知らない。
その言葉が。
何年後かに。
自分自身を苦しくさせることを。