むすび洋菓子店 ―人との縁と縁をつなぐ―

小さな二代目

 いのりが生まれて、三年の月日が流れた。

 いのりは、三歳になった。

 すくすくと育ったいのりは、顔立ちも表情も、結月にそっくりだった。

 ぱっちりとした二重の瞳。

 笑ったときに少し細くなる目元。

 そして、左目の下には結月と同じ涙ぼくろ。

「まあ、本当に結月ちゃんにそっくりねぇ」

 常連のお客さんたちは、いのりを見るたびに笑顔になった。

「べっぴんさんになったね」

「むすび洋菓子店の看板娘だね」

「いのりちゃん、今日も可愛いねぇ」

「ありがとう!」

 いのりは三歳らしい元気な声で答える。

 すっかりお店の人気者だった。

 そして、いのりには大好きなものがあった。

 ――チーズケーキ。

「ママ、チーズケーキ食べたい!」

「またチーズケーキ?」

「うん! 大好き!」

 結月は笑いながら、小さく切ったチーズケーキをお皿に乗せる。

「はい、どうぞ」

「いただきます!」

 いのりは嬉しそうに一口食べる。

「おいしい!」

「ふふっ。結月に似たのかな」

 るいが笑う。

「私もチーズケーキ好きだからね」

「そこまでそっくりなんだね」

 三人で笑う。

 そして、いのりが好きなのは食べることだけではなかった。

「ママ、お菓子作りしたい!」

「じゃあ、一緒にやろうか」

「うん!」

 小さなエプロンをつけた、いのり。

 結月の隣に立って、一生懸命ボウルを混ぜる。

「上手だよ」

「もっと混ぜる!」

 頬にクリームをつけながら、楽しそうに笑う。

 るいはその姿を見ながら、微笑んでいた。

「もう立派なパティシエさんみたいだね」

「まだ三歳だよ?」

「でも、いつも結月の真似してる」

 結月も嬉しそうにいのりを見る。

 そのとき、常連のお客さんが声をかけた。

「いのりちゃん、大きくなったら何になるの?」

 いのりは少し考えた。

 そして、元気いっぱいに答えた。

「ケーキ屋さん!」

「じゃあ、ママのお店を継ぐの?」

「うん!」

 結月は驚いたように目を丸くする。

「本当に?」

「うん! いのり、ケーキ作る!」

 るいが笑いながら言った。

「じゃあ、いのりは二代目だね」

「にだいめ?」

「そう。ママからお店を受け継ぐんだよ」

「いのり、二代目になる!」

 小さな胸を張るいのり。

 その姿を見て、結月とるいは顔を見合わせた。

「二代目かぁ……」

 結月は、少しだけ感慨深そうに笑った。

「まだ三歳なのにね」

「でも、嬉しいね」

 るいが結月の肩にそっと寄り添う。

「うん」

 結月は、いのりの頭を優しく撫でた。

「じゃあ、いつかママと一緒にケーキ作ろうね」

「うん!」

 店内に、いのりの笑い声が響く。

 ショーケースには、今日もたくさんのケーキ。

 雑貨コーナーには、るいの作品。

 そして、店の中央には小さな看板娘。

 むすび洋菓子店。

 ――人との縁と縁をつなぐ。

 結月が始めた小さなお店は、三年の時を越えて、次の世代へと繋がろうとしていた。

 まだ三歳のいのり。

 けれど、その小さな手には、確かに母から受け継いだものがあった。

 人を笑顔にする、お菓子の力。

 そして――

 人と人との縁を結ぶ、優しい心。

 結月とるいは、そんな娘の姿を見ながら、静かに微笑んでいた。
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