むすび洋菓子店 ―人との縁と縁をつなぐ―
再会の場所
ホテルの会場にケーキを運び終えると、結月は小さく息を吐いた。
「ふぅ……終わった」
朝の四時まで作っていたせいか、身体には少し疲れが残っている。
けれど、今日は同窓会。
久しぶりに会うみんなの顔を思うと、不思議と嬉しかった。
そのとき、瑠璃が結月の姿をじっと見つめた。
「結月、今日のドレス綺麗だね」
「ほんと?」
「うん。可愛い!」
瑠璃は笑いながら、結月のドレスを見た。
海を思わせるような色合いのドレス。
湯布院から来た結月が、今日は少しだけ特別な場所へ来たように見えた。
「海を見立てたんだよ」
結月が笑う。
「やっぱり! そうかなって思った」
「ふふっ」
二人で笑う。
会場の時計を見る。
「もう少しだね。みんな来るの」
「うん。楽しみだね」
結月は会場を見渡した。
まだ人は少ない。
「ねえ、瑠璃ちゃん」
「ん?」
「誰が受付してるん?」
「ああ、受付?」
瑠璃は会場の入り口を指差した。
「ルーム長の佐藤くんだよ」
「佐藤くん?」
「そう」
「真面目だね」
「昔から変わらんよね」
二人で笑った。
結月は、受付のほうへ目を向ける。
佐藤は昔と変わらず、真面目な顔で準備をしている。
「そういえば、幹事は誰なの?」
結月が尋ねる。
すると瑠璃は、少し得意そうな顔をした。
「秀と、結菜と、ルーム長!」
「……え?」
結月の表情が止まった。
「秀……?」
「うん。あの三人でやってるんよ」
瑠璃は何気なく答える。
結月の胸が、どくんと鳴った。
昨日、店に来た秀。
そして、結月のことを覚えていなかった秀。
「結菜はね、結月のケーキ食べたいって言ってたんよ」
「私の?」
「そう!」
瑠璃は嬉しそうに笑った。
「やけん、私が結月に連絡したんだよ!」
「そうだったんだ」
「私も食べたかったし」
「もう、瑠璃ちゃんったら」
二人で笑った。
けれど結月の胸の中では、別のことが引っかかっていた。
――秀が幹事。
今日、ずっと一緒にいるかもしれない。
それなのに。
秀は自分のことを覚えていない。
「……大丈夫」
結月は小さく呟いた。
そのとき。
会場の入り口から、声が聞こえてきた。
「久しぶり!」
「元気だった?」
「懐かしい!」
一人、また一人。
同級生たちがぞろぞろと会場へ入ってくる。
「結月!」
「久しぶり!」
「わあ、変わってないね!」
懐かしい顔が次々と集まってくる。
「みんな、久しぶり!」
結月も笑顔で迎えた。
高校時代の空気が、少しずつ戻ってくる。
そして――
最後のほうから、秀が入ってきた。
結月の心臓が、大きく鳴る。
昨日と同じ顔。
でも今日は、昔の仲間たちに囲まれている。
秀も笑いながら、みんなに声をかけている。
結月は秀を見つめた。
目が合う。
ほんの一瞬。
けれど秀は――
何の反応もしなかった。
まるで、本当に初めて会った人を見るような目。
結月の胸が、ぎゅっと締めつけられる。
――やっぱり。
覚えていない。
昨日会ったことも。
高校時代のことも。
自分のことも。
結月は、それでも笑った。
「……おはよう、秀」
勇気を出して声をかける。
「あ、おはよう」
秀は普通に返した。
そして、そのまま別の同級生と話し始める。
結月は笑顔のまま、その場に立っていた。
瑠璃が、そっと結月を見る。
「結月……」
「大丈夫」
結月は小さく笑った。
「今日は、みんなのために来たんだから」
そう言って、二十六人分のケーキが並ぶテーブルへ目を向ける。
その中には――
秀のために作った、あのチーズケーキもあった。
結月は、それを見つめながら思った。
忘れられていてもいい。
今日はただ、みんなに美味しいって言ってもらえれば、それでいい。
そう思おうとした。
けれど――
秀がふと、ケーキの並ぶテーブルへ目を向けた。
その視線が、結月の作ったチーズケーキで止まった。
「……」
秀の表情が、ほんの少しだけ変わった。
「ふぅ……終わった」
朝の四時まで作っていたせいか、身体には少し疲れが残っている。
けれど、今日は同窓会。
久しぶりに会うみんなの顔を思うと、不思議と嬉しかった。
そのとき、瑠璃が結月の姿をじっと見つめた。
「結月、今日のドレス綺麗だね」
「ほんと?」
「うん。可愛い!」
瑠璃は笑いながら、結月のドレスを見た。
海を思わせるような色合いのドレス。
湯布院から来た結月が、今日は少しだけ特別な場所へ来たように見えた。
「海を見立てたんだよ」
結月が笑う。
「やっぱり! そうかなって思った」
「ふふっ」
二人で笑う。
会場の時計を見る。
「もう少しだね。みんな来るの」
「うん。楽しみだね」
結月は会場を見渡した。
まだ人は少ない。
「ねえ、瑠璃ちゃん」
「ん?」
「誰が受付してるん?」
「ああ、受付?」
瑠璃は会場の入り口を指差した。
「ルーム長の佐藤くんだよ」
「佐藤くん?」
「そう」
「真面目だね」
「昔から変わらんよね」
二人で笑った。
結月は、受付のほうへ目を向ける。
佐藤は昔と変わらず、真面目な顔で準備をしている。
「そういえば、幹事は誰なの?」
結月が尋ねる。
すると瑠璃は、少し得意そうな顔をした。
「秀と、結菜と、ルーム長!」
「……え?」
結月の表情が止まった。
「秀……?」
「うん。あの三人でやってるんよ」
瑠璃は何気なく答える。
結月の胸が、どくんと鳴った。
昨日、店に来た秀。
そして、結月のことを覚えていなかった秀。
「結菜はね、結月のケーキ食べたいって言ってたんよ」
「私の?」
「そう!」
瑠璃は嬉しそうに笑った。
「やけん、私が結月に連絡したんだよ!」
「そうだったんだ」
「私も食べたかったし」
「もう、瑠璃ちゃんったら」
二人で笑った。
けれど結月の胸の中では、別のことが引っかかっていた。
――秀が幹事。
今日、ずっと一緒にいるかもしれない。
それなのに。
秀は自分のことを覚えていない。
「……大丈夫」
結月は小さく呟いた。
そのとき。
会場の入り口から、声が聞こえてきた。
「久しぶり!」
「元気だった?」
「懐かしい!」
一人、また一人。
同級生たちがぞろぞろと会場へ入ってくる。
「結月!」
「久しぶり!」
「わあ、変わってないね!」
懐かしい顔が次々と集まってくる。
「みんな、久しぶり!」
結月も笑顔で迎えた。
高校時代の空気が、少しずつ戻ってくる。
そして――
最後のほうから、秀が入ってきた。
結月の心臓が、大きく鳴る。
昨日と同じ顔。
でも今日は、昔の仲間たちに囲まれている。
秀も笑いながら、みんなに声をかけている。
結月は秀を見つめた。
目が合う。
ほんの一瞬。
けれど秀は――
何の反応もしなかった。
まるで、本当に初めて会った人を見るような目。
結月の胸が、ぎゅっと締めつけられる。
――やっぱり。
覚えていない。
昨日会ったことも。
高校時代のことも。
自分のことも。
結月は、それでも笑った。
「……おはよう、秀」
勇気を出して声をかける。
「あ、おはよう」
秀は普通に返した。
そして、そのまま別の同級生と話し始める。
結月は笑顔のまま、その場に立っていた。
瑠璃が、そっと結月を見る。
「結月……」
「大丈夫」
結月は小さく笑った。
「今日は、みんなのために来たんだから」
そう言って、二十六人分のケーキが並ぶテーブルへ目を向ける。
その中には――
秀のために作った、あのチーズケーキもあった。
結月は、それを見つめながら思った。
忘れられていてもいい。
今日はただ、みんなに美味しいって言ってもらえれば、それでいい。
そう思おうとした。
けれど――
秀がふと、ケーキの並ぶテーブルへ目を向けた。
その視線が、結月の作ったチーズケーキで止まった。
「……」
秀の表情が、ほんの少しだけ変わった。