むすび洋菓子店 ―人との縁と縁をつなぐ―

海色のドレス

 同窓会が始まってしばらくすると、会場には懐かしい笑い声が響いていた。

「久しぶり!」

「高校のとき以来じゃない?」

「変わらんね!」

 みんながそれぞれの近況を話しながら、楽しい時間を過ごしている。

 やがて、瑠璃がケーキの並んだテーブルの前に立った。

「みんなー! 結月が作ってきてくれたケーキ、食べよう!」

「待ってました!」

「結月のケーキ、懐かしい!」

 次々に歓声が上がる。

 結月は少し照れながら笑った。

「みんなの好きな味、ちゃんと覚えてるつもりだから」

「一人ずつ味が違うん?」

「そうだよ」

「すごーい!」

 名前の書かれたケーキを、一人ひとりに渡していく。

「これ、私の好きな味!」

「懐かしい!」

「覚えててくれたん?」

「もちろん」

 みんなの顔が、嬉しそうにほころんでいく。

 一口食べると、

「美味しい!」

「やっぱり結月のケーキ、美味しいね!」

「高校のときと変わらん!」

「これ、ほんと好き!」

 あちこちから声が上がった。

 結月はその様子を見ながら、嬉しそうに笑った。

「よかった……」

 朝の四時まで作った疲れも、全部吹き飛んでいくようだった。

 瑠璃もチーズケーキを一口食べて、

「うん! やっぱり結月のケーキ、美味しい!」

「ありがとう」

「連絡してよかったわぁ」

 二人で顔を見合わせて笑った。

 少し離れたところでは、秀もケーキを食べていた。

 手元にあるのは、プレーンのチーズケーキ。

 一口。

 そして、もう一口。

 秀は黙ったまま、ケーキを見つめていた。

「……この味」

 昨日、湯布院の店で食べた味と同じだった。

 懐かしい。

 けれど、まだ記憶の中の何かが掴めない。

 秀は、ふと顔を上げた。

 そして――

 会場の向こう側にいる結月を見た。

 海を思わせるような、美しいドレス。

 柔らかな光に照らされたその姿に、秀は思わず目を止めた。

 青く澄んだ海のような色。

 湯布院の静かな湖面に映る空のような色。

「……綺麗だ」

 秀は、無意識に呟いていた。

 そして、もう一度彼女を見る。

 なぜだろう。

 胸の奥が、ざわつく。

 昨日、店で会った女性。

 そして今日、同窓会で会った女性。

 目の前にいる彼女が、少しずつ重なっていく。

 秀は立ち上がった。

 ゆっくりと結月のところへ歩いていく。

「結月」

 その声に、結月が振り返った。

「……え?」

 秀が、自分の名前を呼んだ。

 結月は驚いて秀を見る。

 昨日は、名前を聞いても思い出せなかった。

 それなのに。

「結月……」

 もう一度、秀が名前を呼ぶ。

 結月の胸が、大きく鳴った。

「どうしたの?」

 平静を装って尋ねる。

 秀は、結月のドレスを見つめた。

「そのドレス……」

「これ?」

「海みたいな色だね」

「うん。海をイメージしたの」

 結月が微笑む。

 秀も、どこか懐かしそうに笑った。

「……綺麗だ」

 その言葉に、結月の胸が痛んだ。

 高校生の頃にも、秀はこうやって自分を見ていた。

 でも――

 今の秀は、まだ完全には思い出していない。

 結月は笑顔を崩さなかった。

「ありがとう」

 その瞬間。

 秀の頭の中に、遠い記憶が一瞬だけよぎった。

 放課後の教室。

 夕陽。

 そして――

 手作りのチーズケーキを持って笑う、一人の女の子。

 結月。

 秀は、思わず息を止めた。
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