71歳の恋愛小説家

加奈子の追憶

次男の幼い子供がヨチヨチと皆の間を歩き回って無邪気な様子に癒された。

長女の娘と長男の娘が二人で次男の子供達を遊んであげている。

そんな孫たちの様子を見ていたら、自分の幼少期の事を思い出した。

加奈子は、ノーマルな家庭で育ったわけではなく、家族や親子の在りようがよく分からない。

長女が中学生の反抗期の時、素行を注意するとお母さんは普通のお母さんと違うと言われたことがあり、あの言葉は今でも加奈子の心の中に澱の様に潜んでいる。

だからなのか、長女とはべたべたした関係ではない。

友人たちの中には娘とよく映画にいったり、二人で旅行に行ったりと仲のいい母娘もいるが、加奈子は娘が大学生の頃はよく洋服を買いに行くのに付き合わされたが、それはお金を払ってもらいたいが為で母親と楽しくショッピングがしたい訳ではないと思っていた。

加奈子には母親がいなかったので、母親と過ごした記憶もないし、母親はどんなふうに子供に接するのかもよく分からない。

自分でも頑固でこれと思ったことは余程の事がないと覆せないし、独立独歩で歩んできたのだ。

それは夫に対しても同じだったと思う。

自分の苦悩や胸の内を例え夫や子供であっても打ち明ける事はしてこなかった。と言うよりできなかった。

どこか心の中に壁を作っていたのかもしれない。

人に相談したりする事もしないし、自分のことを否定したりする人には心を開けない。

普通と違うと言われてそれを受け入れれば今までの自分の生き方が崩壊する。

加奈子は長女夫婦の違和感や、一番下の一歳の孫の屈託のない様子を見ていてふと自分の生い立ちを想った。

加奈子はまだ生後二ケ月位の時に父方の祖父母に引き取られたのだ。

両親はすでにうまくいっていなくて母親はネグレクト気味だったようで、祖父母がいなければ一歳になる前に死んでいたかもしれない状況だったようだ。

祖父母は近所の人にもらい乳をしながら育ててくれた。

幼稚園の時に、叔父夫婦が家を買ったので一緒に暮らすことになった。

叔父夫婦は共働きで祖母が叔父の子供を見る事になったらしい。

その家には離れがあって、十畳位の広さの離れに祖父母と加奈子が三つ布団を敷いて寝ていたのだ。

加奈子はそれを当たり前だと思っていた。

小学校に上がると、加奈子の勉強机もその離れに置かれた。

母屋とは渡り廊下でつながっていた。

屋根もあって雨が降っても濡れることはないのだけれど、夜にトイレに行くのが加奈子は苦手だった。

その頃はぼっとん便所という汲み取り式のトイレで、それも怖かったのだ。

夜にトイレに行くと大きく開いた便器の下に引きずり込まれるような、気持ちがして気味が悪かった。

でも、両親に見捨てられた姪を叔父夫婦も見捨てられなかったのだろう。

中学生になるまでという条件で面倒を見てくれていたのだ。
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