71歳の恋愛小説家
祖母はいつも加奈子の事で叔母に気を使っていた。

一緒に暮らしていた時はもっと気を使っていたのだろう。

お小遣いも内緒でくれていたのだ。

叔父の息子の世話もあり加奈子にばっかり構ってはいられない。

その点祖父は加奈子を可愛がるのを隠そうともしなかった。

叔父や叔母にして見れば、面白くはないだろう。

そう言う事も祖母は一人で背負っていたのだ。

だから胃がんになったのは加奈子の所為だと思っていた。

だから余計に祖母を亡くした時の喪失感は誰よりも深かった。

祖母に申し訳なかったと今でもそう思っている。

祖母が亡くなって葬式の時にはお骨を抱いておいおい泣いた。

自分がしっかりと生きていくのが祖母の供養になるのだと、自分自身で戒めた。

だから働くようになっても加奈子は真面目に真摯に仕事に取り組んだ。

同期とのたまの飲み会や食事会が唯一の楽しみだった。

高校を卒業して会社の寮に入った加奈子の事を、祖父や叔父達は父が追い出したと言う様に感じたのだろう。

ある日職場に訪ねて来た叔母が“こっちに帰ってくる?”と言ってくれた。

その申し出はありがたかったが、十分一人で暮らして行けるし大丈夫だと言って断った。

それからは加奈子は何でも自分の判断で自分の生き方を決めてきた。

結婚するときも実は三人の男性から夫を選んだのだ。

一人は大阪在住で自分で事務所を持っていた設計士で十歳以上歳が離れていたが、収入の面では一番安定した人だった。

もう一人は東京の大きな会社の御曹司、東京弁がかっこいいと思った五歳年上の男性だった。

会社で行ったスキー場で知り合ったのだ。

でもきっと将来は浮気するだろうと思えた。

イケメンだったし誠実そうには見えなかったが、結婚しようと一番最初に言ってくれた人だった。

そして、名古屋に住む金型職人で歳が一番近かった、朴訥な職人の彼が一番加奈子を想ってくれていた。

彼とは加奈子が名古屋支社に社用で行った時に、道に迷って親切にしてもらってその後友人と名古屋に遊びに行った時にも車を出して案内してくれた。

そんな優しくて気が利いて結構顔もタイプだったのだ。

彼は加奈子の孤独な生い立ちも、それゆえ気が強く人に頼る事が苦手で、いつも一人であろうとする加奈子を理解して愛してくれたのだ。

加奈子は自分の素を出せて一緒に居ても疲れないそんな人を夫に選んだ。

お金はなかったが、加奈子も働いていければ子供ができるまではダブルインカムで何とかなるだろうと思ったのだ。
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