71歳の恋愛小説家
職場の上司に相談したら名古屋支社に聞いてくれたら、営業補佐に空きがあった。

会社は辞めずに転勤という形で同じ商事会社の名古屋支社に勤める事ができた。

加奈子は商事会社で働いた五年の間五百万円貯めていた。

給料もボーナスもよかったのでできた事だ。

そして夫が二十五歳加奈子が二十三歳の時に、そのお金の一部を使ってハネムーンも兼ねて二人でハワイに行って結婚式を挙げた。

その頃には祖父も老人ホームに入っていたので、叔父叔母にも知らせずに後で電話で報告したら水臭いと叱られた。

でも、知らせてもハワイまで来てくれとは言えなかったし、招待できるほどお金もなかった。

新生活に必要なものを買って住む処も見つけなければいけなかったのだ。

電化製品も全て買わなければいけなかった。

夫に貯金は全くなかったのだ。

一番貧乏な人と結婚したことをちょっと後悔したが、後の祭りだ。

給料の入る通帳の残高は、マイナスになっていた。

そんな通帳は見たことがなかった加奈子はびっくりした。

夫はこういう時の為にボーナスで十万円を定期にしていたので、それを越えなければマイナスでも通帳からの支払いはしてもらえるのだと言って、胸を張っていた。

いやいやそこは偉そうにする所ではないと思うのだが…

夫は実家から通っていたので、生活費にほんの少し家に入れていると言っていたが、職人見習の給料は加奈子の半分位しかなかった。

加奈子は名古屋支社でその後二年間働いて、子供ができると会社を辞めて専業主婦になった。

退職金も都合七年働いたので、当時のお金で二百万円ほどもらえた。

そうして五年後夫が三十歳の時に独立して今のところに居を構えたのだ。

最初はすべて借金だった。

加奈子が溜めていたお金と退職金を合わせて七百万円を頭金に中古の家を買った。

夫の実家から、金型を作るのに必要な最低限の機械を買うお金を貸してもらった。

機械はびっくりするほど高かったが、それがないと仕事は出来ないのだ。

最初は自宅の庭に物置のようなものを作ってそこで一人で仕事をしていた。

夫は死に物狂いで働いた。

実家の借金は五年で返して隣の土地を買い小さな工場を立てるのに、それから五年かかった。

四十歳の時には自宅の隣に工場を建てて、自宅も少し増築することができた。

子供が三人になっていたからだ。

独立して四十年、本当に仕事一筋楽しそうに働いていたので、突然亡くなってしまったがきっと悔いはなかったと思う。
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