その青は廻る
1章 最低の再会
簡素なオフィス街に建つ、小さく古びた四階建てのビル。その正面にあるガラス扉の前で、一枚の紙切れが風で翻っていた。まるで自ら貼り直すようにゆっくりと戻っていく。そこで目にした文字を把握するよりも先に、「諦め」の二文字が浮かんでいた。
何度か瞬きをしたあと、こんなこと本当にあるんだ……などと思いながら携帯を取り出し、アドレス帳を開いたところで指が止まった。
世間では四月の入社式を迎え、使える新入りは来るか、可愛くて綺麗な女子は来るか、などとあちこちで騒いでいることだろう。そんな時間に、若干二十三歳で玉城柚月はニートに昇格しました、と自虐で明るく振る舞おうとしていた。
そこで不意に、昨日の深夜に見た通販番組に出ていた、俳優になれそうな見た目のアメリカ人が、脳裏で喜劇を繰り広げる。だが、苦笑いするしかなかった。
「こんなことになるなら、数年前の入社試験で不採用だったほうが良かったよ、ジョニー」などと言ってみても、おそらく軽く鼻息で蹴飛ばされるのがオチだろう。
ふと短く息を吐いたあと、アドレス帳から目当ての人物名をタップした。コール音を耳にしながら踵を返し、地下鉄方面へと進んでいく。向かう間に留守番電話に切り替わり、何度かかけ直したものの聞こえるのは同じ音声だった。
地下鉄に乗り、手にした携帯で貯金額を確認しようとしたが、車内で口座を開くのは物騒だと思い直し、ポケットに仕舞った。深呼吸を繰り返す間に、最寄り駅の知らせが聞こえてくる。
駅を出る頃には、家へ帰ったら貯金額を確認しようと考えていた。通勤路を進みながら、他にも思いついたことを頭の中で付け加えていく。アパートへ着くと、ポストからチラシや郵便物を手に一室へ向かっていく。
いつものように見慣れた玄関ドアを開け、するりと通り抜けた。それと同時にひらりと、落ち葉が舞うように一通の葉書が玄関先に落ちた。
自然と視線がそれを追い、頭の中で「どうせネット回線の勧誘だろう」と思いながら、横着して腰から屈む。あと少しで指先が床に触れそうな距離で、はっきりとした文字を目にした。
思わず唾を飲み込んだ。何度もその文字を読み返した。その文字を受け入れる合間、頭の隅で朝の二人のアメリカ人が茶化していた。
「おいおい、一週間の期間があるのか?冗談だろジョニー」とケニーは軽く肩をすぼめ、両手を横に広げ、口角を上げながら窺う。
「なんだよケニー、一週間もあれば充分だろ」とジョニーは口角を上げたまま、当然の顔をした。
ようやく手にした「更新契約のお知らせ」と記された葉書。決して忘れていたわけではない。けれど、度重なる出来事によって、初めて「絶望」という文字が浮かんできた。
何度か瞬きをしたあと、こんなこと本当にあるんだ……などと思いながら携帯を取り出し、アドレス帳を開いたところで指が止まった。
世間では四月の入社式を迎え、使える新入りは来るか、可愛くて綺麗な女子は来るか、などとあちこちで騒いでいることだろう。そんな時間に、若干二十三歳で玉城柚月はニートに昇格しました、と自虐で明るく振る舞おうとしていた。
そこで不意に、昨日の深夜に見た通販番組に出ていた、俳優になれそうな見た目のアメリカ人が、脳裏で喜劇を繰り広げる。だが、苦笑いするしかなかった。
「こんなことになるなら、数年前の入社試験で不採用だったほうが良かったよ、ジョニー」などと言ってみても、おそらく軽く鼻息で蹴飛ばされるのがオチだろう。
ふと短く息を吐いたあと、アドレス帳から目当ての人物名をタップした。コール音を耳にしながら踵を返し、地下鉄方面へと進んでいく。向かう間に留守番電話に切り替わり、何度かかけ直したものの聞こえるのは同じ音声だった。
地下鉄に乗り、手にした携帯で貯金額を確認しようとしたが、車内で口座を開くのは物騒だと思い直し、ポケットに仕舞った。深呼吸を繰り返す間に、最寄り駅の知らせが聞こえてくる。
駅を出る頃には、家へ帰ったら貯金額を確認しようと考えていた。通勤路を進みながら、他にも思いついたことを頭の中で付け加えていく。アパートへ着くと、ポストからチラシや郵便物を手に一室へ向かっていく。
いつものように見慣れた玄関ドアを開け、するりと通り抜けた。それと同時にひらりと、落ち葉が舞うように一通の葉書が玄関先に落ちた。
自然と視線がそれを追い、頭の中で「どうせネット回線の勧誘だろう」と思いながら、横着して腰から屈む。あと少しで指先が床に触れそうな距離で、はっきりとした文字を目にした。
思わず唾を飲み込んだ。何度もその文字を読み返した。その文字を受け入れる合間、頭の隅で朝の二人のアメリカ人が茶化していた。
「おいおい、一週間の期間があるのか?冗談だろジョニー」とケニーは軽く肩をすぼめ、両手を横に広げ、口角を上げながら窺う。
「なんだよケニー、一週間もあれば充分だろ」とジョニーは口角を上げたまま、当然の顔をした。
ようやく手にした「更新契約のお知らせ」と記された葉書。決して忘れていたわけではない。けれど、度重なる出来事によって、初めて「絶望」という文字が浮かんできた。