その青は廻る
 深呼吸を繰り返しながら携帯を取り出し、キッチンを横目に通り抜け、ベッドを背にして腰を下ろす。テーブルを前にすると同時にメモ帳を手繰り寄せ、必要経費をペンで記していく。その隙間にネットバンキングで残高を確認し、計算を弾き出すと、今月分の家賃も更新分も支払いに余裕はある。だが、その後の生活費まで考えると、余裕があるとは言えない。

 あの薄っぺらい紙の一番上に記されていたのは、紛れもない「倒産のお知らせ」という文字だった。それは職を失ったという報せでもあり、当然給料は入らない。失業保険を頼るにしても、手続きなどを考えると、当てにしていいのか分からない。

 そこまで整理したところで、折り返しの電話をしてこない相手に苛立ちが湧いてくる。時間は十九時前、相手の職業を考えると掛けてきてもいい頃合いだ。思わず携帯を手にし、待ち構えてみたが、ものの数秒で息を吐いた。

 ……あの頃は困ったり泣いてたりすると、どこからともなく駆けつけてくれたのに。
そんな昔の記憶に触れたとき、誰かに聞こえるくらいにお腹が鳴って、その空腹感が記憶を押し流していった。そのままお腹を満たしたあとで、一連の家事をしながら、様々な支払いを思い浮かべ、布団に入る頃には手にした機械の値段まで弾き出していた。

 頭の隅に浮かんでくる残高。大体の見当で計算したとしても、生活できるのは、せいぜい半年ほど。少し倹約して生活をすれば、そのうち職も見つかり、次第に安定していくだろう。

 一時はそう落ち着いたものの、計算を繰り返したせいで眠りに就くことができず、ベッドから這い出てリモコンを手にし、布団へ足を滑らせながら電源ボタンを押していた。

 昨夜からチャンネルは変わっていなかったが、ジョニーとケニーは出ていなかった。ぼんやりと眺めながら、もう今日は連絡をしてこない相手のことを追いやり、明日になったらネットで職を探して応募しよう、と思ううちに自然と瞼が閉じ、いつの間にか眠りへ赴いていた。

そして次の朝、食事を終えて職探しをしようと携帯に手を伸ばした。指先が触れる寸前、ぱっと画面が明るくなる。そこに表示された名前を見た瞬間、昨日の苛立ちが湧き上がった。

「もう、何回も電話したのに……」と出るなり不満をぶつけていた。相手の事情があることくらい、分かっているのに。
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