その青は廻る
2章 いつかの紡ぎ
 昨夜はありとあらゆる考え事をし、過去の真相を追ったせいで、眠れた気がしない。どうやって部屋まで来たのかも曖昧で、いま手にしてるフライパンも、握ってる感覚があまりなかった。

 それでも、こうして朝食を作っている。考えてみれば、面接に行ったときから何も口にしていない。そう思った途端に、顔が浮かんできて、思い切り頭を振った。

 長めの深呼吸をしたあとで、テーブルの前に腰をおろす。食事をしながら、身支度を考え始めていた。私服で行こうか、それともスーツにしようか。髪もセットして、化粧もして……と並べたところで、おもむろに立ち上がり、チェストまで歩くと、引き出しからメガネを取り出した。

 『今日はたぶん、瞼が腫れてる。こんな顔、とても人に見せられない』そう思って、テーブルの上の隅へ置く。「さてと」と誰に言うでもなく、軽く背伸びをしてから、身支度を始める。チェストの上にある時計は、午前九時前の数字だった。

 昨日行ったのは十一時だったけれど、今日はもう少し早い方がいいかもしれない。

 そうして、身支度のすべてを終えて、玄関先で振り返る。携帯を手にしたままで、部屋の中を一つずつ指した。

「電気よし、水道の蛇口もよし、ガスの元栓は……、閉めた。行ってきます」まるで遠征にでも行くかのように、軽く敬礼をして、おどけてみた。けれど、ドアノブに右手を掛けたところで、踏み出すことを躊躇った。

 昨日の今日で休むなんて非常識だ。ましてや、辞めますなど、到底言えやしない。携帯を持つ左手に、力が入った。すると、不意に着信音が鳴った。画面を確認すると、よく目にした名前だった。

「おはよう、昨日の場所まで来てる。なるべく早く来い」こちらが出るなり、要件だけ告げて切った。少し不服を抱えたが、その声に、どこかむず痒くなった。そこで、深く息をしてから、静かにドアを開けた。
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