その青は廻る
 個室の前へ着くと、翔太がドアを開けてくれた。けれど、ふと思いついて断った。

「私物を買いたいので、コンビニに行ってきます。佐伯さんに伝えてください」

「了解。気をつけてね」

 柔らかな声を背に、コンビニへ足を向けた。「はい」と返したけれど、どうやら聞こえていないようだった。少しして『あとで謝ればいいか』と軽く考えて、来た道を戻っていく。携帯で検索をしながら、スタジオの正面玄関を抜けた。そして、ナビに従いながら、道を辿っていく。

 コンビニへ着くまでの間に、買うものを頭の中で並べていた。まずは、栄養ドリンクにエナジードリンク。それから、のど飴とガム。あとは……。そう考えるうちに、店へ着いて、店の中をうろつきながら、最後に水をカゴへ入れて、会計の時に煙草を注文した。

 それから、少し駆け足でスタジオへ向かい、個室までの短い廊下を歩いていると、すぐ先に、ドアが開いているのが見える。空気の入れ替えか、と思いながら、近づいた時だった。

「だから、余計なことするな」と聞こえて来たのは彼の声で、怒ってはいないが、苛立ってるようだった。そこですぐに、場を収めたほうがいいのか、知らない振りをして入るほうがいいのか、迷った。けれど、どちらも相応しくない気がする。どうしようか、と考えたけれど、しばらくその場を離れることにして、ドアの足元に袋を置いた。

 戻ったのか、来たのか、よく分からない場所で、定位置のように腰を下ろす。そのまま視線が自販機を捉えると、赤が黒に変わっていた。特にすることもなくて、携帯のアプリで遊んだり、稔に連絡を入れたり、色々するうちに、次第に手持ち無沙汰になった。そこで、おもむろに立つと、あの部屋を避けるように、違う個室を覗いて歩いた。

 スタジオはこぢんまりとしていて、どの個室も機材やブースがあって、同じような感じだった。その中の一室に、ぽつんとギターがあるのを目にして、思わず足を向けていく。それはどこかで見たことがあるような、古めかしいギターだった。それでも、弦を見れば、きちんと手入れされていることが分かった。

 優しく弦に触れた時に、懐かしさが込み上げた。そのままギターを抱える。そこから、近くの椅子に腰掛けて、軽く弾き鳴らした。その瞬間に、あの頃に覚えたコードを、指が自然に辿っていた。
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