その青は廻る
 個室を出ると、すぐ側で彼が壁に背を預けて立っていた。思わず目を逸らしたけれど、視線は完全に泳いでいた。
「勝手に、すみません……」と言ってみたものの、何となく怒ってるような気がして、口を閉じる。怒られても仕方ないことをしていたのに、次の言葉が見つからなかった。

「別に気にしない」そう言いながら煙草を手にすると、「部屋も勝手に使っていい」と口にした。けれど、煙草を箱へ戻して、「ただ、どこに行くかくらい、声掛けろ」と少しだけ語尾を強めた。

「すみません、でした……」小さくなりながら、おそるおそる様子を窺うと、眉間に皺が寄っていた。

 翔太から聞いていないのかと思ったが、先程耳にした言葉を浮かべる。あれは、おそらく仕事上の食い違いで、仲違いをしてるようには思えない。よくあることだけど、彼が部屋を出たのは、冷静になるためなのかもしれない。そう考えたけれど、どんな言葉を掛けていいのか、分からなかった。

「いや……、俺も大人げなかった。悪い」どこか、ばつの悪そうな顔で、声を下げた。

「いえ……、大丈夫、です。よく、あること、なので……」詰まりながら、何とか返したとき、足元に煙草が落ちてきた。すぐに拾い上げると、沈んだような顔だった。

「悪い……、少し考え事してた」そう言いながら、少しだけ口角を上げたけれど、苦笑いとは別の顔をしている。

 その様子に、どれほどの言い合いをしたのか、と考えた。けれど、それは想像でしかなくて、結局言葉に詰まった。

「大丈夫、ですよ……時間を置けば……、たぶん」そう口にして、なんてありきたりな言い方だと思った。他に言葉はあったはずなのに……。

「そうだな。あとで、謝っておく……」ふと短く息を吐いて、煙草を口にする。そして火を点けると、こちらへ煙が当たらないように顔を逸らし、「このあと、予定は?」静かに吐き出した。

「特に、ないです……」そう返すと、少し眉をひそめて、「飯でも、行く?」と口調を崩した。

「お供、します……」咄嗟に答えたけれど、彼の態度を見ながら、自分が先回りすればよかったと、考えていた。そこで、気軽に誘えたなら、笑えたかもしれないのに……。
 
 すると、ふっと鼻息を漏らして、「いつの時代だよ……」とあきれたように、軽く笑った。そう言われても、他に思いつかず、「じゃあ、ご一緒、します……」と返してみたところで、「どっちでもいい、行くぞ」と半ば強引に手を引かれてしまった。
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