その青は廻る
 スタジオの入口へ進んでいると、受付前に翔太が立っていて、こちらを見るなり、近づいてくる。その横をすり抜けるように、彼が正面玄関の方へ向かい、シャッターを降ろしていた。

「何かされてない?どこも痛くない?」そう言いながら、あちこちと目配せをしている。その顔は険しいようで、不安げに見えた。同じように眉を下げたけれど、たかがコンビニくらいで、と思い直す。そこで、個室で聞いたことを浮かべて、ようやく口を開く。

「特になにも……」そう口にしながら、頭の中に疑問符を並べていた。

「そっか……」翔太は呟くと、「よかったー、マジで焦ったー」と軽く宙を仰いでから、深く息を吐く。

 その様子に少し吹き出したけれど、翔太が気にかけてくれたことが、嬉しかった。

「コンビニ行っただけだし、そんなに、強く言われなかったので、大丈夫です」

「え?あ……そうなんだ。なら、良かった……」急にこちらを向いたかと思うと、再び全体を見回すようにして、軽く笑った。

 そこで、ふと口にした。

「二人とも大げさです……。そんなに遠くないのに、それにお昼だったし」自分がしたことは脇に置いたまま、余計なことを口にしないようにした。

「そうだけどさ、女の子なんだから、気をつけないと……」少し肩を落として、息を吐くと、「あ、そうだ」思いついたように携帯を手にして、「連絡先、交換しよ」と画面を向けてくる。急かす様子はないけれど、そこで複雑な気持ちになって、手を止めた。

 まだ、よく知らない間柄で、おまけに違う世界の人なのに、気軽になれるほど、話もしていない。なのに……。

「大丈夫。うちの事務所は、そういうの自由だから」翔太はそう言いながら、こちらの手にそっと手を添えると、「それに、仕事の相談とか、プライベートの悩みとか、色々出てくるだろうし」と続けながら、画面を見せた。

 こちらを気遣う言葉に、素直に画面を開くと、翔太の連絡先が登録された。そこで彼から「行くぞ」と声を掛けられ、翔太が携帯を見せながら、「いつでも連絡して、時間とか気にしないから」と続けて、「あと……」耳の側に顔を近づけてくる。

「気をつけてね。今日の佐伯、余裕ないから」囁くように告げると、すぐに戻って、口元で笑みを作った。

 そこで再び彼から、「早くしろ」と急かされ、『財布にいくら入れたっけ』と思い浮かべながら、使った部屋の使用料や、楽器のメンテナンス代まで頭の中で計算して、正面玄関へ向かった。
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