その青は廻る
「まぁ、ゆっくり考えたらいい。急ぐ必要もない」そう彼が言った時に、店員が食事をテーブルへ運んできた。置かれたものを前に、一息つくと、どちらからともなく、「いただきます……」と声が重なった。
食事に手を付けるなり、「そういえば……」と思い出したように彼は言って、箸を進めながら、話し始める。給料のことや、大まかな仕事内容と勤務形態。そこから広がって、会社を立ち上げたことや、スタジオを建てたところで、手が回らなくなった、とぼやいた。
同じように食事をしながら、彼の話をただ聞いていた。色々なことがあったはずなのに、それを乗り越えて、前へ進もうとしている。そこで自分が役に立つだろうか……と考えていた。
すると、彼は乱暴に煙草を手にして、「そんな、堅く考えなくてもいいだろ……」と口にした。
「そんな言い方しなくても……いいじゃ、ないですか……」口をすぼめると、言葉尻も消えかかっていた。けれど……。
「別に、怒ってない」少し声を上げて、煙草を口にすると、箱をテーブルの上へ投げた。
「怒ってるじゃないですか」少し腹が立って、唇を尖らせた。
「だから、怒ってない……。まだ、二日目だろ」煙草の箱に手を掛けたまま、指先で軽く弾いて鳴らしていた。
「ごめんなさい……。言い過ぎました……」咄嗟に吐き出して、少し身を引いた。
「いや、大丈夫だ。気にするな」呟くような声で、煙草を手にすると、伝票を持って腰を上げる。
「あの……」思わず口にして、「奢ります……」と続けた。
「どうした、急に」訝しげな顔で、こちらを窺いながら、足を止めている。
「いや……、送り迎えしてもらってるし、採用してもらったし……」そう言いながら、疑問符を浮かべては消して、「それに……」と言い掛けて、さすがにと口を閉じかけた。なのに、「色々としてもらったので……」と結んだ。
「じゃあ……よろしく」少し間を置いてから、彼は伝票を出した。
そのまま受け取って、支払いを済ませる。そのあとで、近くにあった煙草の自販機へ向かった。煙草を手にしたまま、先を行く彼の背を追って、足を進めていく。すると、視線の先で彼がドアを開けて待っていた。
少しだけ急ぎながら、横を通り過ぎて、少しの段差で躓いたとき。
それは、どちらが先に手を取ったのか、分からないほどの誤差だった。
一瞬だけ、あの夏を振り返った気がした。
気づけば、触れただけの軽いキスが、額に残っていた。
食事に手を付けるなり、「そういえば……」と思い出したように彼は言って、箸を進めながら、話し始める。給料のことや、大まかな仕事内容と勤務形態。そこから広がって、会社を立ち上げたことや、スタジオを建てたところで、手が回らなくなった、とぼやいた。
同じように食事をしながら、彼の話をただ聞いていた。色々なことがあったはずなのに、それを乗り越えて、前へ進もうとしている。そこで自分が役に立つだろうか……と考えていた。
すると、彼は乱暴に煙草を手にして、「そんな、堅く考えなくてもいいだろ……」と口にした。
「そんな言い方しなくても……いいじゃ、ないですか……」口をすぼめると、言葉尻も消えかかっていた。けれど……。
「別に、怒ってない」少し声を上げて、煙草を口にすると、箱をテーブルの上へ投げた。
「怒ってるじゃないですか」少し腹が立って、唇を尖らせた。
「だから、怒ってない……。まだ、二日目だろ」煙草の箱に手を掛けたまま、指先で軽く弾いて鳴らしていた。
「ごめんなさい……。言い過ぎました……」咄嗟に吐き出して、少し身を引いた。
「いや、大丈夫だ。気にするな」呟くような声で、煙草を手にすると、伝票を持って腰を上げる。
「あの……」思わず口にして、「奢ります……」と続けた。
「どうした、急に」訝しげな顔で、こちらを窺いながら、足を止めている。
「いや……、送り迎えしてもらってるし、採用してもらったし……」そう言いながら、疑問符を浮かべては消して、「それに……」と言い掛けて、さすがにと口を閉じかけた。なのに、「色々としてもらったので……」と結んだ。
「じゃあ……よろしく」少し間を置いてから、彼は伝票を出した。
そのまま受け取って、支払いを済ませる。そのあとで、近くにあった煙草の自販機へ向かった。煙草を手にしたまま、先を行く彼の背を追って、足を進めていく。すると、視線の先で彼がドアを開けて待っていた。
少しだけ急ぎながら、横を通り過ぎて、少しの段差で躓いたとき。
それは、どちらが先に手を取ったのか、分からないほどの誤差だった。
一瞬だけ、あの夏を振り返った気がした。
気づけば、触れただけの軽いキスが、額に残っていた。