その青は廻る
 覚悟して車に乗ってきたけれど、着いたのは普通のファミレスだった。
『意外と普通なんだ』と思ったものの、すぐに打ち消して、彼のあとについて進んでいく。そこでも、やはり彼はドアを開けて、こちらを視線で促してくる。思わず何食わぬ顔で、店へ進んだけれど、彼は少し不機嫌な顔をしていた気がする。

 テーブルへ着くまで、床に手をつくか、いっそ額までつけるか、などと考えているうちに、隅の窓際の席で、彼が少し乱暴に腰を下ろした。そして煙草を口にしたまま、メニューを手に取ると、ただ眺めている。

 そこで座るのを躊躇って、水を取りに行く。サーバーからコップに水を注ぎながら、改めて思い返すと、まともに謝罪をしていなかったと、反省していた。踵を返して、席へ着くと、「何食べる?」そう言いながら、メニューを見やすいように、こちらへ向けた。

「じゃあ、オムライスにします」そう答えると、「お子様ランチもあるけど?」とメニューを覗き込むようにして、こちらを少し見上げる。

「子どもじゃありません」軽くふくれっ面になりながら、背もたれに腰を預けたところで、視線がぶつかって、姿勢を正した。

「さっきは、本当に済みませんでした……」視線を下げると、声も落ちて、膝がぼやけていた。

「もう、いい。それに、俺のほうこそ、礼も言ってなかった。お互い様だ」頬杖をついて、煙草を燻らせながら、こちらへ顔を向けると、すぐに窓の外へ視線を移した。

 同じように眺めてみると、帰宅の時間帯を越したというのに、忙しく車が行き交っている。人もまばらで、音も聞こえないのに、過ぎ行くライトやテールランプの光が、子どもの頃に遊んだ花火の残像のように見えた。

「なぁ」と声を掛けられ、視線を戻すと、「まだ弾いてるのか、ギター……」そう言って、煙を吐き出す。

「いえ、いまはもう……」そう返したけれど、笑えてるのか、分からなかった。

「そうか……。でも、結構上手かった。いや、かなり」煙草をもみ消して、すぐに次を手にすると、少しだけ口元を上げた。

 思っていた以上の言葉に、返すことも忘れた。
「佐伯さんは、もう、歌わないんですか?」口にしてから、墓穴を掘ったことに気づいた。

「歌う気はない」そう結んだあとで、「今の仕事が好きだし、俺には、合ってる」軽く眉を寄せながら、煙草を口にすると、「それより、決めたのか?うちでの仕事」急に話を戻して、こちらへ顔を向けた。

 そこでしばらく考えてみたものの、やはり思いつかなかった。
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