別府の湯けむり、君と50年の未来

ママも会社へ

 ある日の午後。

 雪のスマートフォンに、会社の佐々木から電話がかかってきた。

「もしもし、佐々木さん?」

『雪さん、突然すみません。ちょっと相談がありまして』

「どうしたんですか?」

『実は……社長なんですけど』

「遥斗が?」

『はい。時々、仕事をサボることがありまして……』

「やっぱり?」

 雪がため息をつく。

『それで、僕から提案なんですが……雪さん、会社で事務として働いてくれませんか?』

「私が?」

『はい。雪さんがそばにいたら、社長の怠け癖も治るんじゃないかと思いまして』

 雪は思わず笑った。

『それに、社長が仕事をサボってる時、何してると思います?』

「何してるの?」

『スマホで雪さんの写真とか、蒼生くんの写真を見てるんです』

「……え?」

『それで一時間くらい経ってることがあります』

「一時間!?」

 雪は思わず声を上げた。

『はい……。本人は「ちょっと休憩」って言うんですけど』

「それ、休憩の時間じゃないよね……」

『なので、雪さんが事務として働いてくれたら、社長もちゃんと仕事するんじゃないかなと』

「分かりました」

『本当ですか?』

「保育園が見つかって、蒼生を預けられるようになってからになりますけど、それでよければ」

『もちろんです!』

 こうして雪は、会社で事務として働くことを決めた。

 そして――。

 雪は蒼生を預けられる保育園を探し始めた。

 いくつか候補を見ていく中で、見つけたのが青空こども園だった。

「ここなら、蒼生も楽しく過ごせそう」

 園の雰囲気を見て、雪は安心した。

 必要な手続きを済ませ、入園が決まった。

「蒼生、保育園行くんだよ」

「ほいくえん?」

「うん。お友達といっぱい遊べるよ」

「おともだち!」

 蒼生は嬉しそうに笑った。

 入園に必要なものも準備し、いよいよ通園の日を迎える。

 これから雪は、母として蒼生を育てながら――。

 そして遥斗の妻として、会社の事務として。

 新しい毎日を始めることになった。

 もちろん遥斗には、まだ知らされていない。

 ――自分の「怠け癖」を治すために、妻が会社へやって来ることを。
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