別府の湯けむり、君と50年の未来

今日から事務員

 蒼生が青空こども園に通い始めて、しばらく経った。

 毎朝、元気に登園し、先生やお友達と楽しく過ごしている。

 ある日、雪が連絡帳を開くと、先生からこんな言葉が書かれていた。

「今日はお友達と一緒に遊びました。先生のお話もしっかり聞けて、お勉強にも楽しく取り組んでいました」

「蒼生、頑張ってるね」

 雪は嬉しそうに笑った。

 その一方で――。

 会社の遥斗はというと。

「社長、こちらの確認をお願いします」

「……あとで」

 佐々木が離れた隙に、遥斗はスマートフォンを取り出す。

 画面に映っているのは、雪と蒼生の写真。

「雪……蒼生……」

 気づけば時間が過ぎている。

「社長?」

「……!」

 佐々木に声をかけられ、慌ててスマートフォンを隠す。

「仕事してください」

「はい……」

 蒼生は保育園でしっかり頑張っている。

 なのに遥斗は――二歳の蒼生にはできる「先生のお話を聞くこと」すら、時々できていなかった。

 そして、ついに雪が会社で働き始める日が来た。

 雪は遥斗には何も言わず、会社へ向かった。

「おはようございます」

「あっ、雪さん!」

 佐々木が嬉しそうに迎える。

「今日からよろしくお願いします」

「こちらこそ!」

 雪はまず、遥斗には知らせずに様子を見ることにした。

 そして、そっと社長室を覗く。

「……」

 遥斗は机に向かって――いなかった。

 椅子に座り、またスマートフォンを見ている。

「……またサボってる」

 雪は呆れながら社長室へ入った。

「遥斗」

「……ん?」

 遥斗が顔を上げる。

 そして雪を見た瞬間、目を丸くした。

「雪!? なんでここに?」

「またサボってたね」

「……」

 遥斗は固まった。

「今日から事務員として働きますよ」

「えっ……」

 佐々木が後ろから笑いをこらえている。

「社長、これでサボれませんね」

「佐々木さん……」

 雪は机の上の書類を整理する。

「蒼生は保育園で、お勉強もして、お友達ともちゃんと遊んでるんだよ」

「うん……」

「それなのに遥斗は?」

「……仕事します」

「よろしい」

 雪はにっこり笑った。

 こうして――。

 社長・遥斗の会社に、新しい事務員が加わった。

 その名は、妻の雪。

 これから遥斗の仕事ぶりが、少しずつ変わっていくことになる。
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