“ハズレ枠”の私を愛してくれたのは、あなたでした ―“好き”を受け取る資格がありません―
第1章 資格未取得、実務経験有り ―上書きされる罪悪感―
第1話
窓の向こうから、激しくガラスを叩く雨音が響いていた。
触れる彼の指先は、未だ冷たい。
「なおさんのこと、大切にします」
気だるい、特有の疲れの中。
やさしく髪を撫でられながら言われた言葉に、すっと心が冷えていく。
先ほどまで感じていた熱も、驚くほどきれいさっぱりと無くなった。
「……大切にされるほどの人間じゃないよ、あたし」
苦笑交じりに伝えると、力強く否定された。
「そんなことないです!
なおさんは、もう僕の大切な彼女ですから!」
え、どうしてそうなるの、と今更ながらに慌てた。
「……いや、別に付き合ってはいない……よね?」
髪を撫でていた彼の手が止まる。
見上げた彼の目は、泣く寸前のように揺れていた。
ぎゅうっと、胸が押しつぶされそうだった。
男性の、こんな表情を見るのは初めてではない。
でも、させたいわけでもないのに。
触れる前に、せめて好きとか言ってくれたら、断れるのに、なんて無責任にも考えた。
そういう意味で抱きしめたのではないと、言わなかったのはお互い様なのに。
ただ身体を求められるだけならと、拒まなかったのは自分だった。
「……でも、僕はなおさんを……」
「……大丈夫。
初めてでもないし慣れてるから、気にしないで」
「――……」
静かに、息を詰めるような音が聞こえた。
触れる肌から伝わってくるのは、彼の震え。
「僕は……なおさんに。
……一番してはいけない愛し方を、してしまったんだって。
……今わかりました」
一雫、頬を伝う涙をただ見つめていた。
どうしてまた繰り返してしまったのだろう。
失敗したなと思った次には、相手はだいたい余所余所しくなって、そして会わなくなっていく。
せっかく仲良くなれたのに、友だちをまた失ってしまう。
大事な友だちの一人だし、優しくて穏やかな彼は、決して嫌いな人ではなかった。
嫌いではないのに、断るだけの明確な理由がうまく見つけられなかった。
女性としての価値が、そこにあるのならそれで良かった。
それが、人を傷つけるということを、この時はまだよくわかっていなかった。
◇
思い出すのは、大切な友人の涙を初めて見た日。
責める言葉は一つもなかった。
ただ、一滴零れ落ちたそれが、すごくきれいで心が痛かった。
傷つけるつもりも、何がいけなかったのかもわからなかった。
ただ、何かを間違ったことだけはわかった。
自然と、何度も身体を重ねた。
一緒にいるのが当たり前すぎて、触れることも当たり前だと思っていた。
彼は、なおの初めての人だった。
何度も何度も、その時に名前を呼んでくれる人だった。
彼が始終優しかったから、きっと今でも行為に抵抗がない。
彼と身体を重ねた後のことだった。
彼が、小さく好き、と零した。
なにが、と尋ねた。
じっと、彼の目がなおを見つめた。
なおは静かに、見つめ返した。
しばらく、彼は続きの言葉を紡ぐことはなかった。
そして静かに、涙をこぼした。
彼にあんな顔はさせたくなかった。
一番大事な友人を傷つけたんだということだけは、痛いほど伝わってくるのに、何がそうさせたのかだけはわからないままだった。
それから、彼以外にも何人かの仲良くなった男の子と、そういう機会はあった。
断るだけの理由がなくて、触れられることを許し続けてきた。
だけど、いつも最後はみんな同じ、傷ついた顔をさせてしまう。
誰一人、なおを責めることがなかった。
だからこそ、失敗原因がわからなかった。
◇
「……なおさん。
……先にシャワー浴びてきて、服を着てください」
彼はずっと下を向いたまま、家の廊下の方を指さした。
なおは頷いて、浴室へと入る。
彼の大学の傍の、2LDK。
お兄さんと二人暮らしというこの家は、二人で住むには少し贅沢な広さだ。
広々とした浴室で、彼のお兄さんが帰ってこないうちにとサッとシャワーを浴びる。
部屋に戻ると、入れ違いに彼が出ていった。
手持ち無沙汰でぼんやりと机の上に置かれているテキストを眺める。
難しい漢字の並んだ厚いテキストを見て、大変な勉強をしているんだなと改めて思った。
姿見で自分の姿を改めて見る。
彼に借りた、上下のスウェット。
男性にしては小柄な彼の服は、少し袖があまるくらいで、ぶかぶかと言うほどでもなかった。
自分の服は、今洗濯機に入れてもらっている。
部屋の広さと、ドラム式の洗濯乾燥機。
贅沢な環境。
改めて、自分のやらかしにため息が漏れた。
――また、失敗しちゃった。
同じことを、何度繰り返せばいいのだろう。
明確に何がいけなかったのかは、見つけられないままだった。
――やっぱりあたしには、“好き”を受け取る資格なんて、ない。
触れる彼の指先は、未だ冷たい。
「なおさんのこと、大切にします」
気だるい、特有の疲れの中。
やさしく髪を撫でられながら言われた言葉に、すっと心が冷えていく。
先ほどまで感じていた熱も、驚くほどきれいさっぱりと無くなった。
「……大切にされるほどの人間じゃないよ、あたし」
苦笑交じりに伝えると、力強く否定された。
「そんなことないです!
なおさんは、もう僕の大切な彼女ですから!」
え、どうしてそうなるの、と今更ながらに慌てた。
「……いや、別に付き合ってはいない……よね?」
髪を撫でていた彼の手が止まる。
見上げた彼の目は、泣く寸前のように揺れていた。
ぎゅうっと、胸が押しつぶされそうだった。
男性の、こんな表情を見るのは初めてではない。
でも、させたいわけでもないのに。
触れる前に、せめて好きとか言ってくれたら、断れるのに、なんて無責任にも考えた。
そういう意味で抱きしめたのではないと、言わなかったのはお互い様なのに。
ただ身体を求められるだけならと、拒まなかったのは自分だった。
「……でも、僕はなおさんを……」
「……大丈夫。
初めてでもないし慣れてるから、気にしないで」
「――……」
静かに、息を詰めるような音が聞こえた。
触れる肌から伝わってくるのは、彼の震え。
「僕は……なおさんに。
……一番してはいけない愛し方を、してしまったんだって。
……今わかりました」
一雫、頬を伝う涙をただ見つめていた。
どうしてまた繰り返してしまったのだろう。
失敗したなと思った次には、相手はだいたい余所余所しくなって、そして会わなくなっていく。
せっかく仲良くなれたのに、友だちをまた失ってしまう。
大事な友だちの一人だし、優しくて穏やかな彼は、決して嫌いな人ではなかった。
嫌いではないのに、断るだけの明確な理由がうまく見つけられなかった。
女性としての価値が、そこにあるのならそれで良かった。
それが、人を傷つけるということを、この時はまだよくわかっていなかった。
◇
思い出すのは、大切な友人の涙を初めて見た日。
責める言葉は一つもなかった。
ただ、一滴零れ落ちたそれが、すごくきれいで心が痛かった。
傷つけるつもりも、何がいけなかったのかもわからなかった。
ただ、何かを間違ったことだけはわかった。
自然と、何度も身体を重ねた。
一緒にいるのが当たり前すぎて、触れることも当たり前だと思っていた。
彼は、なおの初めての人だった。
何度も何度も、その時に名前を呼んでくれる人だった。
彼が始終優しかったから、きっと今でも行為に抵抗がない。
彼と身体を重ねた後のことだった。
彼が、小さく好き、と零した。
なにが、と尋ねた。
じっと、彼の目がなおを見つめた。
なおは静かに、見つめ返した。
しばらく、彼は続きの言葉を紡ぐことはなかった。
そして静かに、涙をこぼした。
彼にあんな顔はさせたくなかった。
一番大事な友人を傷つけたんだということだけは、痛いほど伝わってくるのに、何がそうさせたのかだけはわからないままだった。
それから、彼以外にも何人かの仲良くなった男の子と、そういう機会はあった。
断るだけの理由がなくて、触れられることを許し続けてきた。
だけど、いつも最後はみんな同じ、傷ついた顔をさせてしまう。
誰一人、なおを責めることがなかった。
だからこそ、失敗原因がわからなかった。
◇
「……なおさん。
……先にシャワー浴びてきて、服を着てください」
彼はずっと下を向いたまま、家の廊下の方を指さした。
なおは頷いて、浴室へと入る。
彼の大学の傍の、2LDK。
お兄さんと二人暮らしというこの家は、二人で住むには少し贅沢な広さだ。
広々とした浴室で、彼のお兄さんが帰ってこないうちにとサッとシャワーを浴びる。
部屋に戻ると、入れ違いに彼が出ていった。
手持ち無沙汰でぼんやりと机の上に置かれているテキストを眺める。
難しい漢字の並んだ厚いテキストを見て、大変な勉強をしているんだなと改めて思った。
姿見で自分の姿を改めて見る。
彼に借りた、上下のスウェット。
男性にしては小柄な彼の服は、少し袖があまるくらいで、ぶかぶかと言うほどでもなかった。
自分の服は、今洗濯機に入れてもらっている。
部屋の広さと、ドラム式の洗濯乾燥機。
贅沢な環境。
改めて、自分のやらかしにため息が漏れた。
――また、失敗しちゃった。
同じことを、何度繰り返せばいいのだろう。
明確に何がいけなかったのかは、見つけられないままだった。
――やっぱりあたしには、“好き”を受け取る資格なんて、ない。
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