シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

2.直充くん

 翌日の昼過ぎ。

「梨来さん、これお願いします」

「はーい」

 差し出された書類を受け取り、梨来は内容へ目を通した。

 申請者名。

 学籍番号。

 必要事項が記入されていることを確認して、受付印を押す。

「これで大丈夫だよ」

「ありがとうございます!」

「うん。次からは締切、もうちょっと早めに思い出してねぇ」

「すみません……」

「昨日まで忘れてたでしょ?」

「なんで分かるんですか」

「顔に書いてある」

「嘘!?」

 学生が慌てて頬へ手を当てる。

 梨来はくすっと笑った。

「嘘だよぉ」

「梨来さん!」

「でも、次は気をつけてね」

「はーい……」

 しょんぼりしながら学生が事務室を出ていく。

 梨来はその背中を見送り、書類を所定の場所へ置いた。

 大学事務員の仕事は、思っていた以上に細かい。

 各種申請。

 問い合わせ。

 施設の使用に関する手続き。

 落とし物。

 学生からの相談。

 時には、

「教室に傘忘れたんですけど、どうしたらいいですか」

 なんてことまで聞かれる。

 最初の頃は、

 ――それ、私に聞くんだ。

 と思ったものだけれど。

 むしろ。

「梨来さーん」

「んー?」

「ちょっといいですか?」

「いいよぉ」

 今ではもう慣れた。

 名前を呼ばれると、反射的に返事をするくらいには。

 今度やってきた学生の話を聞きながら。

 梨来はふと、昨日の希美との会話を思い出した。

『梨来さんも好きな人できたら分かりますって』

 好きな人。

 恋愛。

 そして。

『別に』

「…………」

「梨来さん?」

「ん?」

「聞いてました?」

「聞いてたよ?」

「今絶対ぼーっとしてましたよ」

「ちょっとだけ」

「やっぱり!」

「ごめんねぇ」

 梨来は素直に謝った。

 学生は笑う。

 こういうやり取りも。

 少し前までの梨来には、ほとんどなかった。

 誰かとくだらない話をする。

 どうでもいいことで笑う。

 自分の知らないことを教えてもらう。
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