S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
毎日通勤で使っている路線とは異なる路線の最寄り駅へ向かうため、くるりと踵を返してゆっくりと歩き出す。
先ほど出てきたばかりの会社のエントランス前を通過し、横断歩道を三つ渡ると、地下へ続く階段を降りていく。
和季の家はここから地下鉄で二駅、改札を出て五番目の出口から地上へ上がり、さらに歩いて三分の場所にある、超高層マンションだ。
(ちゃんと覚えてる自分が憎い……)
最後にここを訪れてから、もう二年が経過している。
なのに会社からマンションまでの道順も、和季の部屋の番号も、エレベーターの位置もちゃんと覚えていることに、小さな虚無感とささやかな気恥ずかしさを感じる。紗夜はもう、恋人でもなんでもないはずなのに。
エレベーターで上階へ上がり、和季の部屋の前にあるインターフォンを押そうと手を伸ばす。
しかし人指し指がボタンに触れる直前でカチャン、と鍵が開く音、次いで扉がギイと開く音が響いた。
「!」
「紗夜」
開いた扉の向こうから現れた相手に、少し焦ったような声で名前を呼ばれる。
明里和季。紗夜の四つ年上の二十九歳。家具・インテリアメーカー『株式会社ルミリュクス』で常務取締役を務める、アカリグループの御曹司。
四年前の春から二年前の春まで経理部財務課に所属しており、後半一年は当時新卒だった紗夜の教育係を、そしてそのうちの最後の三か月は、紗夜と恋人関係にあった相手だ。