S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
先ほどの電話越しと異なり、目の前の和季に直接名前を呼ばれると、紗夜も少しだけ緊張してしまう。
しかし紗夜は、彼の前でおろおろと狼狽えるためにここへやって来たわけじゃない。
引き締まった身体と百八十センチを超える長身の和季をじっと見上げて、感情が伝わりやすいようあえてムッとした表情を向ける。
「社員を自宅に呼び出すなんて、非常識です」
「ごめん」
紗夜が不満を口にするとすぐに謝罪の言葉を述べてくれる。だが本気で反省している様子は微塵も感じられない。
「でも、来てくれた」
「それは、和季さんが……!」
にこりと楽しげな笑みを向けられ、またも大きな声を出してしまう。
ただし電話越しだった先ほどと異なり、今度は直接顔を見ていたせいか、自分でも予想外の失態を犯してしまった。
その小さなミスを、和季が即座に拾い上げる。
「よかった」
「……え?」
「名前。忘れられてるのかと思ったから」
「! ちが、これは……!」
和季の指摘に慌てて口を押さえるが、やはり彼は紗夜に反論の隙を与えてくれないらしい。
「中、入って」
「いえ……私は……」
「いいから、ほら」
和季の声と視線に促され、受け入れざる得ない空気を醸し出される。
もちろんそこに反抗することも不可能ではなかったが、紗夜も同じフロアの他の住人たちに迷惑をかけたいわけではない。