S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる

 お酒を飲んでも飲まなくても、先ほどの話題に触れても触れなくても、おそらく紗夜は冷静でいられない。きっと、不安と不満が顔に出てしまうはずだ。

「疲れてるので、今日はもう寝ようと思います」
『体調悪いのか?』
「大丈夫です」

 疲れているのは本当だ。今日はなにをしても作業に時間がかかるうえにミスばかりで、周りの人にもたくさん迷惑をかけてしまった。

 そんな情けない失態を明日も繰り返したくはないので、強制的に思考を切り替えるためにもやはりここはきっぱりと断ることにする。

「おやすみなさい」
『! おい、紗夜! 紗……』

 少々強引に話を切り上げてドアフォンの受話器を置くと、和季の声が途中でぷつりと途切れる。

 数秒と間を置かずにもう一度チャイムが鳴ったが、それには応じずにいると、やがて隣の部屋の玄関扉がバタン、と閉じる音が遠くに響いた。

 和季の気配が遠退いたことを確認すると、とぼとぼと寝室に向かってベッドへ近づき、柔らかいシーツの上へぽすん、と倒れ込む。

「態度、悪かったかな……」

 目を見て会話どころか、顔を合わせることすらせず、ドアフォン越しの会話も強制的に打ち切ってしまった。

 せっかく誘ってくれたのに申し訳ないことをしてしまったと思う反面、やはり会ってもどんな顔をすればいいのか、なにを話せばいいのか、そして昼間のことを聞いた方がいいのか聞かない方がいいのかも、よくわからない。

< 196 / 304 >

この作品をシェア

pagetop