S系策士に豹変した元恋人御曹司の独占愛が甘すぎる
仕事終わりだというのに明るい声を向けてくる和季にどう返答すべきかと戸惑っていると、ドアフォン越しに予想外の誘いを受ける。
『いいワインをもらったんだ。つまみも買ってきたから、一緒に飲もう』
和季の誘い文句に紙袋をガサガサと探るような音が重なる。
このマンションのドアフォンにはモニター機能が搭載されておらず、こちらに届くのは音声のみである。
だがそれでも和季が紗夜と晩酌をするために準備をしてきてくれたこと、それを楽しみにしてくれていることは声音から伝わってくる。
和季の気持ちはなんとなく察せるが、それでも紗夜は頷けない。これが昨晩だったら迷った末に結局は和季を迎え入れていたと思うが、事実を知ってしまった今は、とてもそんな気分にはなれなかった。
『紗夜?』
「……結構です」
紗夜が沈黙していると、ドアフォン越しに和季が疑問の声を発する。ようやく絞り出した返答の一言は、紗夜自身も驚くほど冷たく乾いていて、その声に和季も少し驚いたようだった。
『どうした? 具合でも悪いのか?』
「……いえ」
和季が心配そうな声で訊ねてくるので、少しだけ心が痛む。
しかしここで『じゃあ和季さんと会って話をしたい?』と自問自答してみても、すぐに『それは無理』という結論に至る。